日常生活の至る所で、ワクチン接種に関するニュースが見られる。
私は、どちらかと言えばワクチンを打ちたくない側の人間であった。
別に、反ワクチン派の主張に賛同するわけではない。「自然が大事!!免疫は自然に得るもの!!」というエセ科学には首を傾げてしまう。
それではなぜ、接種に躊躇するのかと言うと、理由は2つ。
まず、将来的な影響や副反応について不透明な部分が多いこと。例えば、ワクチン接種後に月経不順や周期に影響があったことを訴える女性が増えている……というニュースを見るが、国としては生理とワクチン接種の因果関係を認めていない。英国では約3万人が同様の症状を訴えているという報道もある。決して少なくない人数であるにも関わらず「ワクチン接種と月経不順は直接的に影響しない」と言い切るのは、少し疑問だ。
次に、自分がインフルエンザのワクチン接種の予防接種で苦しんだこと。インフルエンザのワクチン接種後に副作用が出るのは、5~10%ほどだという。私はインフルエンザのワクチン接種後は必ず腕が動かなくなり、体調を崩す。そのせいか、何となく「インフルのワクチンさえあれだけ辛いんだから、それより副反応が重いらしいコロナのワクチンなんて打ったら、どうなるか分からないよな」と考えていた。
けれども、世間体的には打たなければならない。仕事内容的にも打たなければならない。
たまたま予約ができた私は、ため息を吐きながら手帳に「ワクチン接種」と書き込んだ。
信州から越してきて3か月が経った。
3か月目。それは、ヨシナリのメンタルが病みやすい時期である。
案の定、病んだ。わりと深刻に、病んだ。
最初こそ、残業時間9時間という世界線を生きていたのだが、次第になぜか私に仕事量が集中化したため、状況が一変した。
残業時間という点だけなら、1年目の時の方が辛かったかもしれない。今は、終電で帰るほどの忙しさとは無縁だ。
だが、1年目の時よりも辛く感じる。
それは、新しい職場での仕事のやり方に適応できていないからだ。仕事内容的には似ているものの、1年目の時に学んだやり方で対応できない上、仕事のスピードが遅い。
例えば、メール文案一つにしても、上司の確認を取らなければならない。確かに1年目の時も重要な案件の時は上司に確認してもらっていたが、ここでは常に見てもらわなければいけない。非常に疲れる。
やっと確認してもらえたと安堵するのも束の間、取るに足らないとても細かい部分を修正される。1年目の時に、メールの書き方という点ではかなり鍛えられたので、私はそうそう変なメール文案を作っていない(はず)である。
そのため、「標記の件について確認したところ」という文案を「件名について確認させていただきましたが」へ修正されるのを見ると、ちょっとモヤモヤする。
私は、できる限り「〜させていただく」という表現を使わない主義である。社会人1年目の時、初めて上司に確認してもらったメールで「させていただく」という間違った敬語を多用し、尽く赤字修正された経験があるからだ。
それなのに、ここでは「させていただく」を使わないと逆に修正されることを学び、非常に複雑な気分だった。
自分の案件ではなかった内容まで私に集中した結果、前任から引き継がれていた本来の私の案件は他の人の担当へ変更された。
終わらない仕事。加えて、英語の勉強もある。忙しいことこの上ない。
【1回目】
ワクチン接種1回目の朝。私はランランとした気持ちで電車に乗り込んだ。
これで、私は寝込むことができる。ようやく休める。
その通り。精神的に病んでいた私は、副反応への恐怖心よりも、仕事を休める嬉しさが勝っていたのである。予約してくれた過去の自分ありがとう、くらいの気持ちだった。
接種したのは定時30分前の夕方だった。痛かった。ピアスホールが片耳に2つ開いてる人間の言葉には説得力がないと思うが、私は注射が大の苦手である。
巷では副反応により38度台まで上がるという新型コロナウイルスのワクチン。大学時代、過労によって、半年に一度は扁桃炎で寝込んでいた私の最高記録は39.9度だ。流石に、この記録を塗り替えることはないだろうとタカを括り、体温を測った。
1時間後の体温は、35.9度。平熱である。
ワクチン接種したお陰で残業しないですんで良かった、というナメた感想が胸の奥でそっと灯った。
2時間後は36.4度、4時間後は37.0度と体温が上昇する。だが、不思議なことに風邪の時のようなダルさがない。低体温の人間が平熱36.5度の人の気持ちを体感しているだけだ。
腕の痛みはあったものの、翌日も36度台後半までしか上がらず、気がつくと接種から48時間が経過していた。タカすら括る必要がなかった。私の副反応との日々は終わりである。
……いや、待って。
これでは、ただのワクチン接種で健康を手に入れた人じゃないですか。
【2回目】
2回目はヤバい、とはたくさんの人から聞いていた。周囲の人は全員、高熱で苦しんでいたし、仕事も休んでいた。
「冷えピタは用意しておいた方が良い。食料も買い込んでおくべき」
職場の先輩や友人からのアドバイスには忠実に従い、私は冷えピタを購入しておいた。
2回目のワクチン接種前、精神的疲労がピークに達した私は、バファリンとともに生活をしていた。
謎の頭痛から始まり、水曜日の深夜には吐いた。微熱まで出た。吐いても吐き気が治まらず、泣いた。
だが、木曜日に試験を受ける必要があったので、寝込むことはできない。胃腸薬とビタミン剤とバファリンを無理やり飲み込み、吐き気と闘いながら無理やりテストを受験した。どう考えても、オーバードーズ。新型コロナよりもうつ病にならないかを心配すべき。
オーバードーズ気味でもテストを受験したのは、週末に寝込む予定があったからだ。
熱が38度出ても良いから、何もやりたくない。ずっとお部屋に引きこもっていたい。
1度目と同じくらい気持ちだけは明るいまま、私は接種会場へ向かった。注射をするのに、ここまで爽快な気分になったのは、人生で初めてだ。
1度目ほどの痛みもなく、注射自体はあっさりと終わった。さあ、ここから何度まで上がるかな〜と呑気なことを考えて体温を測ってみるものの、待てど暮らせど36度台後半までしか上がらない。
そんな馬鹿な。2回目×20代×女性という副反応最強カテゴリーに入ってるはずなのに。
腕の痛みと頭痛はある。しかし発熱はなく、日曜日には35.9度という平熱に戻った。神様は、ここまでして私を休ませたくないのかと、悲劇のヒロインになりきった。
ただ、生理痛がいつもより重く、座っているのも辛かったので、週末はずっとベッドの上で過ごしていた。冒頭で述べたように、悲しいことに因果関係を認められていないので、副反応に入らないのだけど。
車酔いの激しい私だが、12月まで毎週出張の予定だ。バファリンに代わり、次は酔い止めを服用しなければならない。
次に休めるのはいつなのかな。