Weekly Yoshinari

Weeklyじゃなくてさーせん🙏🏻

フラペチーノが遠すぎる

誕生日やお祝い事などの節目には、スタバカードなるものをよくもらう。

全国共通、みんな大好きスターバックスコーヒー。

LINEでピコンと送れるし、もらって困るものでもない。遠方に住む知人に送るプレゼントとしてはなかなか優秀なセレクトだ。相手が鳥取県に住んでいるなら、「ご近所にスタバがある環境だと思うなよ!」と今後の友好的な関係性を左右する可能性も考慮に入れておくべきだが、だいたいの県にはスタバが存在する。ありがたや、ありがたや。

 

私の手元に、プリペイド式のスタバカードがやってきた。ギフトだったので、すでに金額はチャージされている。しかも3000円分。

いやあ、良かった。とっても良かった!!スタバへ行き放題!!!

グーグル先生に聞いたところ、どうやらプリペイドカード使用前にWeb登録をするとスターバックスリワードなるものに参加でき、ポイント(スターと呼ぶらしい)を貯めることで、様々な特典をゲットできるとのこと。なんかよく分からないが、カッコいい雰囲気がある。

街灯に集まる夏の虫のごとく、カッコよさげなものに吸い寄せられてしまう習性があるので、私はほぼ条件反射で速攻Web登録を済ませた。

 

スタバの会員という響きに酔いしれること約半年。

私の残高はいまだ3000円であった。

 

もともと、私はスタバが苦手だ。

偏見を承知だが、あの意識高そうな雰囲気が苦手なのだ。田舎出身の仕事できない・意識低い系には敷居が高い。ナンチャラカンチャラフラペチーノのカスタムドウチャラで、サイズはエル……あ、スミマセン!グランデです!みたいな。

これ書きながら、いまメニュー調べててんけど、ドリンクって言わへんのやな。ビバレッジって言うねんな。別にええで、意味は間違ってないし。でもな、こういうとこや、スタバが苦手なんわ。なんであえて、ドリンクじゃなくてビバレッジっていうん?ドリンクという外来語としての地位を確立してる単語じゃなくて、受験英語をやった人しか分からへん単語を使うところに、分断を感じるねん。

ついでに言わせてもらうと、あのサイズ表記。CEOがイタリアに敬意を示しただかなんだか知らんけど、なんでサイズ表記に英語とイタリア語が混在してるん。そのせいで、分かりづらいことになってんねや。だいたいな、英語すら話されへん日本人がイタリア語のサイズ表記なんて見せられて、分かるはずないやろ。「スタバ行く人はだいたい英語できるハイスぺだから、類推余裕でしょ?」という挑戦状か?

心の声を盛大に吐き出してしまったので、一旦お口をチャック。

 

数年前の誕生日にスタバカードをもらった時には、会社の帰りに途中下車してスタバへ寄ってみた。なんとなく、スタバで英語の勉強をするというシチュエーションに憧れがあったからだ。行く前はあれだけフラペチーノの頼み方を調べて予習は完璧、満点ゲットと自信を持っていたのに、いざ行くと

「あ、コーヒーで……サイズはトールで……」

と消え入るような声で、キラキラした店員と目も合わせずに安全牌のオーダーをして時が経つのを待った。着席後も、「スタバ初心者が勉強しようとしている、不慣れな奴だと思われているのではないか」という不安が脳をかすめて全く集中できない。

空気に飲まれた。完敗だった。30分後には、スタバに似つかわしくない女なのだと涙をこらえて敗走していた。

 

不思議なのは、他のコーヒーチェーン店には一人で入れることだ。

高校時代には、サンマルクカフェの隅の席で模試の見直しをするのが好きだった。

大人になった今、最も受験頻度が高いのは英語試験。中でもIELTSは1日がかりの試験だが、午後のSpeaking試験に備えてタリーズを利用することが多かった。

出張の朝に立ち寄っていたのはルノアールかVELOCEだった。

様々なチェーン店があるが、椿屋珈琲はヘビーユーザーだ。友達と語らいたい時も、一人で読書をしたい時も、場所に悩んだら取り敢えず椿屋珈琲を探す。

なぜか、スタバだけがダメなのだ。

 

ある日、職場でスタバが話題になった。スタバはただのチェーン店なのに、どうしてあんなにブランド力を保てるのだろうという疑問から始まり、皆でごちゃごちゃ論争を楽しんでいた。

「私、3000円分のスタバカードを持っているんですけど、使えないまま半年が過ぎたんですよね。スタバってなんか行きづらくないですか?」

質問を投げかけると、意外にも賛同を得た。なんとなく行かないし、行く機会もない。仮に暇つぶしが必要な時にもドトールタリーズを選んでしまう、と私が考えているのと同じような意見だった。

しかし、スタバ大好き派も存在しており、全国各地・世界各地にあるスタバのタンブラーを集めるのが趣味だと語っていた。そう言えば、友人の中にも、海外旅行をすると絶対にスタバへ立ち寄ってマグカップを購入するという人がいる。男女問わず、スタバでコレクションをするのを楽しみにしているファンは多いらしい。スターバックスリワードにしても、フラペチーノのような期間限定商品やタンブラーのような地域限定商品にしても、スタバは収集癖のある人に満足感を与える仕組みを作るのが上手い。

「なんで、ヨシナリさんはスタバへ行かないの?」

質問の主であるスタバ大好き先輩は、世界各地のスタバへ訪れた強者だ。飲み会は2次会まで参加するというパリピ陽キャ感に加え、語学も堪能。そうそう、スタバに通う人ってこんなイメージだよねと頷きたくなる先輩だ。

「まず近くにスタバがない。次にヨシナリは陰キャ。この2点ですかね」

「あるじゃん、一駅先に。スタバに寄ってから出勤すればいいじゃん。コーヒー持って、一駅分歩くのも良い運動になるよ。会社に到着した時には、いいくらいにコーヒーも冷めてるんだよね」

発想がすでに陽キャなのよ。スタバに寄る時間あるなら、お家でインスタントコーヒー飲んでるのよ。スタバよりも勉強がはかどるし。

スタバ大好き派と陰キャ女。

ああ、一生運命が交わることはないのだろうか。私は、スタバでフラペチーノpost on Instagramを体験できないのだろうか。

 

絶望した私のもとに、語らいのお誘いinスタバがきたのは、数日後のことだった。

 

東京出張中の友人と会うことになった。午前中に私の職場の近辺で用事があるとのことで、約束した時間は私の始業前。落ち合う場所は、スタバ。一駅先からコーヒー片手に優雅に職場までの道のりを散歩し、ドヤ顔で執務室に入るチャンスが到来したのだ。

前日夜にはビバレッジのメニューを検索し、しっかり予習もしておいた。サイズ表記を間違わないぞ、とか。コーヒーもいいけどせっかくならフラペチーノが飲みたいぞ、とか。緊張のせいで「カスタム~」なんて口走るような失態はおかすなよ明日の自分は責任が取れないからな、とか。

ドヤ顔入室チャンスを失うが、やっぱりこの機会にフラペチーノが飲みたい。

フラペチーノを飲んだのは、47都道府県限定フラペチーノが発売された2021年頃が最後だだ。あの時は勇気を出して、1か月で3店舗も回ったわけだが、引っ越しという特殊事情で気持ちが高揚していたからこそ成せた技だった。

こういう普通の時。友人と会う時に、誰かと一緒にフラペチーノを飲んでみたい。

そう固く誓って、毛布にくるまり、真横のぬいぐるみにおやすみを告げた。

 

友人よりも一足先に現地へ到着したが、これは正解だった。

スタバは朝から混んでいる。だが、友人と明るく話す場とするには気が引けてしまいそうなほど静かで、勉強をしている社会人が客の大半を占めていた。

前日は「3000円もあるし、サンドウィッチでも買おうかな」と考えていたが、まったくお腹が空いていなかったので諦めることにした。スタバのフードを楽しむのは、将来に持ち越すことにしよう。

「お決まりですか?」

キャピキャピというより落ち着いた女性店員から、定型的な質問をされる。

スタバは落ち着いている。店内は静か。女性店員は美人。

ああ、もう逃げ出したい。私みたいなの場違いやねんて。陰キャはお家でインスタントコーヒーすすっておくのが丁度ええねんて。

脳内で後悔を大合唱した私が口をついて出てきたのは、

「あ、ソイラテのトールで……、あ、あと、支払いはこのカードって使えますかね?」

……いや、フラペチーノちゃうんかい。

どもってるし、カード使用できるか質問しちゃうし。超絶ビギナーなのは、バレたことだろう。

 

メンタルをすり減らして手に入れたソイラテをすすりながら、友人に席を確保したことをLINEする。

スタバカードの残高は2510円になった。次こそは、フラペチーノを頼むのだ。それも、ちょっとオシャレな限定品を頼むのだ。

こんな意気込みをしてしまうほど、フラペチーノと心の距離が遠いのだ。

今回も完敗しましたが、ごちそうさまでした。

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