Weekly Yoshinari

Weeklyじゃなくてさーせん🙏🏻

抑圧は自由を生む

共産主義圏で生まれ育ち、民主化運動に身を投じる人のようなタイトルで恐縮だが、私はヘイワなニホンで湯水をちゃぷちゃぷしながら育った人間だ。瓦礫の下から、日光に向かって手を伸ばし、自由をつかみ取ろうともがく人にしてみれば、私の愚痴なんて不平不満にカテゴライズされるかさえも怪しいだろう。

 

とある国では、自由な発言をすると罰せられる。精神の自由が認められず、全ての国民に同一の国家礼賛型の思想を植え付ける。

馬鹿だな、と思う。もちろん、発言者ではなく国家と政治家に対して。

人間は、禁止されると禁止されたことについて疑問を持つ生き物なのだ。それが殺人のように明確な禁止理由が存在する行為ならばともかく、思想や服装のように、およそ誰かの迷惑になり得ない範囲の行為まで禁止されると、異議の声があがるのは当然のことのように思える。SNSで罵詈雑言を吐き散らす、下半身を露出して散歩をする、というような内面的要素に関係するものの、他の犯罪類型にも組み込まれるような行為でない限り、組織が個人を制御するのは不可能なことのように思える。

 

今月から、私は在宅勤務に移行した。それも、今年の夏の引っ越しまでの約3か月という長期間だ。これで「コロナひどいから、あと一年間は信州にいてください」と言い渡されたら、たぶん泣く。一年前の在宅勤務時には思ってもいなかったことなのだが、在宅勤務の嬉しいことの一つは、自由な服装ができることだ。

 

東京の職場は、服装規定が緩かったので(同期は、私の服装が緩すぎただけで他の人はまともだったと主張しているので諸説ある。)私は毎日、お気に入りの服を身にまとっていた。高いヒールも履いていたし、揺れるピアスもつけていたし、鮮やかピンクネイルもしていたし、花柄スカートも着まわしていたし。ここまでの見た目ヤバい奴は、私の他にいなかったかもしれないが、少なくともシフォン袖のブラウスのような一般的にフェミニンオフィスカジュアルに区分される服装をしている人は度々見かけた。会社内ですれ違うくらいにはいた。

 

だが、こちら信州では「暗黙の了解」的服装規定が存在している。皆、揃って黒色スーツなのである。おまけにパンツスーツ率が高い。ネイルをしている人は皆無だし、ピアスなんてもってのほか。毎日、冠婚葬祭しているのか。それか万年就活生か。私は就活生のような白色ブラウスを何枚も持っていないので、フェミニン系御用達のリボンブラウスやレースブラウスを着て行っていたのだが、それでも社内では浮くくらいだし、

「ヨシナリさん、いつもお洋服可愛いですね!」

と後輩から声をかけられるくらいだった。KAWAII!?!?この真っ黒スーツスタイルにリボンブラウス合わせただけだぞ。少なくとも私の感覚では、真っ黒パンツスーツの時点で可愛くはない。

「うちは、他のところよりも厳しいみたいで……。他県の同期に話したら、『まだリクスー着てるの!』って驚かれたんだよね」

とは、三日に一回はスカートタイプのスーツを着てくる先輩の発言であり、閉鎖的な職場環境を良く表しているものだと思う。ちなみに私のフェミニン系ブラウスについては、異動早々に総務課長から着用許可はもらっている。課長自身も初めて信州に赴任したそうなのだが、「ここは厳しいみたいですけど、全然気にしないでいいですよ」と言われた。厳密な服装規定は存在していないのに、揃って着用される黒色パンツスーツ。誰か改革してくれないだろうか。

毎日の通勤服を考える手間は省けたが、私にとっては可愛い服装が戦闘服であり、癒しでもあり、楽しみでもあるので、この服装規定は私の気分安定装置をオフにしてしまうものだった。

 

それでも私は諸事情あり、職場内の様々な人と関わらなければならなかったので、一週間に少ない時で2日間、多い時では5日連続で服装規定に則った。年明けから3月中旬くらいまでにかけては、スカートを履いた日はなかったと記憶している。

小さいピアスに、究極的に似合わないパンツスーツ。鬱々とした日々を過ごしていたが、3月後半、自分の中の何かが切れた。

どうせ、夏までしか住まないのだから、もう誰に何を思われても良くない?

吹っ切れると、自分を正当化する理由が次々と思い浮かんだ。

どうせ今でも、出向者である私は余所者扱いをされているのだ。なぜ、余所者レッテルを貼られた私の側だけが、どうして、この職場になじもうと奮闘しないといけないのだ。

どんな服装であろうと、私は他の人よりも真面目に仕事をしているし、無理難題だってこなしてきた。内規違反をしているわけではないので、誰からも文句を言われる筋合いはないはずだ。

 

こうして私はこの暗黙ルールの全てがどうでもよくなり、ピンクのレーススカートやら赤色パンプスやらを身につけるようになった。指先は桜色で縁取ったし、髪はくるくる巻いていた。

「ヨシナリさん、服装が華やかだね~」

「やっぱり若い女の子が来ると、場が明るくなっていいですね~」

と職場のオジサンからは声をかけられた。京都ならば嫌味の可能性が高いが、ここは信州である。私は嫌味を嫌味と思わないおめでたい性格なので、ここが京都でも、さして気にしないと思うけれど。
「そうですかね~。ちょっとスカートの色変わっただけですよ~」

などとやり過ごし、私は暗黙の服装規定を破った。

気分が明るくなった。青空と桜の美しさを感じられる余裕が出た。

 

その後、私は本来の自分を取り戻し始めた。 

 

ビビッドなピンクのピンヒールを買ったり。買ってから、この靴を履いて遊びに行く友達がいないことに気がついた。

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お気に入りの香水の大きいバージョンを買ったり。当然、職場には香水コレクターはいない。

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そして、最終的に大爆発が起こり、右耳のピアスの数が増えた。ヤバい奴に拍車がかかっているが、誰にも指摘されていないので、たぶんバレていない。話が脱線しますが、この手前のピアス、めちゃくちゃ可愛くないですか。アメリカンピアス風ですが、普通のピアスみたいな。

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ピアスを増やしたのは、自分自身に思うところがあったからだ。たぶん、タトゥーを入れる人も同じ気持ちなのだろう。

 私の場合、なんとなく左右非対称な自分が嫌いだったからだ。手術をしたので、ましにはなったものの、私は右目がうまく開かない。力が入らない分の重さを右側に足せば、なんとなく心が満たされるような気がした。

 

先週、久しぶりに職場へ行った。相変わらず、皆は黒色パンツスーツだった。書類の提出のためだけに向かったので、私服の花柄ワンピースだった私は、同じ会社の人間とは思えない雰囲気を醸し出していた。

郷に入りては郷に従え、も大事だとは理解している。ただ、それが自分の精神的な乱れを招くものであったとしても、従う必要はあるのだろうか。

在宅勤務明けに、この風景に溶け込むかどうかは、これから考えていこうと思う。