Weekly Yoshinari

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チーズと私とマッチングアプリ④

前回はこちら↓です。

チーズと私とマッチングアプリ③ - Weekly Yoshinari

今回から、ついに!アプリ使用者と対面する編!スタートです!!

 

【No. 1】

名前 : 佐藤さん(仮名)

スペック : 会社員の20代後半男性。

アプリのプロフィールでは165cmとあったが、彼は思っていたよりも小柄だった。私はほぼ毎日踵の高い靴を履いているため、実身長プラス5cmの印象を与えてしまうタイプである。佐藤さんの身長を越さないかと心配になった。

「すみません。ヨシナリさんですよね?」

「はい。佐藤さんですよね?」

よろしくお願いします、と挨拶を交わす。笑顔を作ると途端に、商談を始めるような気分になった。

初めて会うのに夜を選んだ理由は、いくつかある。まず、会社帰りに会えること。次に、お酒の力で何とかなること。

私は現在の職場において、上司から「あいつは本物だ。顔色一つ変えずに日本酒をあおってやがる」と私がいない場所で語られているくらい、お酒には強い方だ。「あっ……カシオレしか飲んでないけど、もう無理かも……」という儚げ女子にはなれない代わりに、意識が飛ぶことは99%ない。一升瓶を飲んだ時でさえ、気持ち悪くはなったが記憶を失うことはなかった(こういう部分も可愛げない要因だろうと思う。)。

だが当然、初対面の人は、私がお酒に強いことなど知らない。いくらでも演技がきく。いたって冷静でも、酔ったふりをしておけば、その場をしのげるのではないかという算段である。それが良いか悪いかは別として。

私と佐藤さんは、新橋の小洒落たレストランへ向かった。暑い夏である。テラス席には歓談するグループも多く見られた。私は他人から、どう見られているのかなと考える。会社の先輩?友達?カップル?

この人とカップルだと思われる自分を想像して、顔をしかめたくなった。

そして同時に、この小柄で自分より年上の男と付き合う可能性もあるのかという事実を今更ながらに認識した。逃げ出したくなった。これなら一人で飲む方がましだ。

「何食べたいですか?食べられないものとかないですか?」

「私は何でも食べられるので、大丈夫です。佐藤さんは?」

「僕も大丈夫ですよ」

「チーズは大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫です」

海老とアボカドのサラダやムール貝のアヒージョ、プレミアバーガーなどなど、アメリカのダイナーのようなメニューが並んでいる。

自分はメニューを渡されたとき、目移りせずに迷わず決められる方だ。まったく迷わずに決めきる時もあるし、「私もう決めたわ」と言いつつ本当は2択で迷っているものの、店員が来た時の思いつきで料理名を告げる時もある。

しかし、私は知っている。「あ、ハンバーガーにするんで」とサッサと決めるのは、可愛くないことを。

「私、いつも初めてのお店来たら、どれにしようかって迷っちゃうんですよね〜」

はい、嘘。虚構のヨシナリ。

私はカモにされやすい顔をしている。肌色が白いせいか、初対面の方からは大人しくて、女の子っぽくて、病弱だという印象を抱かれることも多い。3年半一緒にいたAくんが「ずっと面倒を見ていたい」と言った心境も、まあ理解できないことはない。

「美味しそうなものが多いですし、迷いますよね」

アプリのメッセージでしかやり取りしたことのない男は、あっさり騙されてくれた。

「どれで迷っているんですか?」

「プレミアバーガーもいいですし、スペシャルバーガーもいいですよね。サラダも、アボカド好きだけど、生ハムチーズも捨てがたいです。あ!だけど、ポテトサラダも食べたいですね。そんな食べられないんですけど」

「僕もサラダで迷っていたんです」

「本当ですか!全部美味しそうですよね。選べないです」

心の中では、海老とアボカドサラダ&プレミアバーガーのセットに固まっているが、そんな様子はおくびにも出さない。

「じゃあ、僕が候補絞りましょうか」

「え!嬉しい!!お願いします!!」

おお。私が迷った素振りを見せた時に、「じゃあ、俺がもう選んじゃうね」と決めていたAくんより上手い。私にも選択権を与えてくれる感じ。絶対、仕事ができる人だ。

「じゃあ、アボカドとポテトサラダとサーモンのどれかでどうでしょう?」

「ありがとうございます、それじゃあ、アボカドにします」

この気遣い方、私も見習いたい。

 

サラダとプレミアバーガーが来る前に、カシオレで乾杯をする。日本酒をあおる女がカシオレである。言わずもがな、可愛い子ぶっただけだ。

「お仕事は何されているんですか」

「趣味は何ですか?アプリでは読書好きって言ってましたよね」

「大学時代は、何をされていたんですか?」

苦痛というわけではないが、怒涛の質問責めを喰らった。コンピテンシー面接ですらない、一問一答方式が続く。これは何だ。OB訪問か。

そして、またまた私の悪い癖が発動する。

丁寧に返答してしまうのだ。それはもう、就活かのようなよどみない口ぶりと笑顔で。八方美人で根が真面目な性格なので、適当な受け答えをすることができないのである。メニューを即決できないカシオレ好き女子を演じきるなら、もっとふわふわした雰囲気じゃないとダメなのに。

食事つき面接が終了したのは、それから一時間半後だった。地下鉄の入り口で別れる際、佐藤さんは丁寧に挨拶をしてくれた。

「ヨシナリさんって、新卒とは思えないほどしっかりしてますよね。今日はありがとうございました。また、どこかで」

「こちらこそ、ありがとうございました。また、どこかで」

私も佐藤さんに対してお礼を告げる。面接室を出ていく時のように、深くお辞儀をしながら。

二度と連絡を取ることはなかった。

 

 

【No.2】

名前 : 鈴木さん(仮名)

スペック : 大学生。来年からマスコミ就職予定。

年齢には特にこだわりはないと書いたが(「チーズと私とマッチングアプリ③」参照)好みで言うなら、年下よりも年上が好きだ。これもまたAくんとの付き合いの反動である。高校卒業後に浪人を挟んで入学した私は、大学の学年こそ同じだが、年齢は現役で入学したAくんよりも年上であった。もっとも私は早生まれなので、たかだか一つ違いを年下扱いするのもおこがましいのだが。

私が自分よりも2歳下の鈴木さん(仮名)とメッセージを送っていたのは、完全に「何となく」だった。

「今度一緒に美術館へ行きませんか?」

「良いですね!ぜひ行きましょう!!」

流されやすい故、鈴木さんのお誘いを断ることができなかった。美術館なら良いかな、くらいのものだ。

こうして佐藤さんとの面接風お食事会から一週間後の週末、上野にて鈴木さんと会うことになった。

 

佐藤さんは写真で見る限りでは、小柄なほっそりした雰囲気の男性だった。プロフィールでは身長165cm。佐藤さんと同じくらいだ。

私が上野の某美術館に到着した時、彼はすでに待っていた。

「ヨシナリさんですよね?」

「あ、鈴木さんでよろしいですか?」

絶対に165cmはない。前回の反省を踏まえて踵の低めのサンダルで来たのに、目線が私と変わらない。男の人は、身長にこだわるのかなと思った。

鈴木さんは、私にチケットを差し出した。

「先に着いたんで買っておきました」

「ありがとうございます!!お金払いますよ」

「あ、良いですよ別に」

「いや、一応私が社会人なんで。逆に払いましょうか?」

「いえいえ、そんな。遠慮しないでください」

あ、これはあかんわ。

入口に向かいながら、回れ右して駅へ逆走したくなった。

前回の逆バージョン。後輩にOG訪問されている気分だ。

「よく美術館来られるんですか?」

「趣味って言うには回数足りない気がするんですけどね。東京来てからは、これが初めてなんですよ。鈴木さんは、美術館来ること多いんですか?」

「僕も趣味ってほどは行けてなくて。最近までは就活で忙しかったから」

「ああ、大学四年生って言うてましたよね。今しか遊べへんし、一番楽しい時ですよね」

関西弁が出てしまう。展示を見る前から、後輩と話す時の感覚になってしまっている。

あかんわ、これ。

 

展示内容は可もなく不可もなく。混雑していたため、出会って数回目になるなら「はぐれないように手を繋ぐ!」的なミッションも達成できたのかもしれないが、まだ1回目である。一定の距離感を保つのに骨を折った。

「お昼、どこかで食べます?」

「そうですね」

鈴木さんからの誘いに断る理由もなかったため、私たちは駅ビルへ向かう。ビルの中層階に入っているお洒落な定食屋さんにしましょう、という彼のチョイスだった。

「ヨシナリさん、どこの大学だったんですか?」

「私は関西出身だから、関東の人は知らないかもしれないんですけど、〇〇大学です」

「あっ、知ってます。僕はMARCHです。〇〇大学から、その職業の人ってあまりいないんじゃないですか。珍しいですよね。普段、何をしているんですか?」

私が仕事の内容を説明するが、理解しているのかしていないのか分からないような反応であった。お勉強はできるのかもしれないが、物足りない。どうしても、自分の友人や会社の人と比較してしまう。

展覧会の感想には触れず、私と鈴木さんは他愛もない話で場を持たせた。彼の大学での日常に耳を傾ける時間が多かった。ゼミの話やサークルの話や就活の話などなど。私にとっても、半年前までは日常を形作っていたような出来事について、彼は楽しそうに語った。お陰様で、就活風スタイルからは脱却できた気がする。

「お昼代、私が払いましょうか?社会人やし」

「良いですよ、僕が払います」

「じゃあ、せめてさっきの美術館チケット代は返します」

「いや、良いですよ。ご飯代もチケット代も奢りますよ」

「それは悪いから」

私は彼の手に千円札を押しつけた。甘えるのは苦手なことに加え、社会人が大学生に奢ってもらうという状況に耐えられなかった。モテる人なら、ここで「ありがとう!」と気持ち良く好意を受け取れるのだろうか。

「今日はありがとうございました」

「こちらこそ。大学生活楽しんでね」

LINEの交換をすることもなく、私と鈴木さんは駅前で別れた。

帰りの電車の中、私は考えた。

自分は、マッチングアプリには向いていない。

コミュ障だし、初対面の人に甘えられるほどの可愛らしい性格も、目を惹くほどの外見も持っていない。

学校や職場のような長時間をともにする人も私のことを好きになってはくれないし、アプリのように第一印象が大事な出会い方でも、相手に好かれるような振る舞いをすることはできない。

――なんでAくんと別れへんの?早く別れて新しい人を見つけた方が良いと思うよ。

大学時代、友人はいつも同じ助言をしてくれていた。友人たちには、私の愚痴を聞かせてしまって心から申し訳ないと思っていた。友人とご飯へ行った帰り道「今日も自分のことばかり話してしまった」と自己嫌悪に陥ることの方が多かったかもしれない。

――私も別れた方が良いとは思ってるねん。他の人なら、簡単に別れられると思う。でも、私は人に好かれるタイプじゃないから。彼と別れてしまったら、もう二度と誰とも付き合えないから。

そう答えて、私は大学時代の大部分を、彼とともに過ごした。

過去の発言が、私を追いかけてくる。

Aくんと別れられなかった理由は、的を得たものだったのだという確信が生まれる。

ほら、やっぱり自分は、誰からも好きになってもらえない人間なのだ。

どんどん暗い気持ちに引きずられながら、電車に揺られる。

抜け殻のようになった私は、決意した。

マッチングアプリは、自分の心に毒を盛るのと同じだ。自分を影日向に追いやって、暗い気持ちを増長させてしまう。

対面の約束をしているのは、残り1人だけ。彼と会ったら、マッチングアプリをやめよう。

 

次回は最後の人と出会う!!シリーズ最終話です!!!

……とはならないんやなぁ。