前回はこちら↓です。
https://yoshinari.hatenablog.com/entry/2021/02/20/210232
【あらすじ】
マッチングアプリを使い始めたが、逆に自己肯定感の低さから病んでいったヨシナリは、3人と会った後にアプリ卒業を誓う。
アプリ休止後、仕事の先輩とデートの約束をするものの、自然消滅。友人に相談すると「もっと遊べ」とアドバイスされる。
クリスマス前に熱にうなされながら、ヨシナリは考える。「このまま独りで死にたくない」と。
結果、アプリ再開を試みるのだった。
※
マッチングアプリは以前に失敗しているため、同じことを繰り返しても意味が無い。PDCAを回すべく、私はいくらか使い方を改善することにした。
まず、プロフィールを正直に書く。
前回のプロフィールは、アプリがおすすめするテンプレに従ったものであり、友人からも「こんなこと言わへんやろ」とツッコまれるほど、実際の自分とはかけ離れたものだった。
そこで、今回は、自分の働く業界のこと(具体的な職業名は避けているが、忙しいことなど。)や相手への希望を自己紹介に書いておくことにした。
「私は残業時間が長い会社で働いております。そのため、毎日絶対に連絡を取りたいと思う方や週末はほぼデートをしたいと考えられる方は、申し訳ありませんが、私とは向かないと思います」
このようなことを実際に書いていた。会社の同期に自己紹介を見せると「こういうこと書くから、彼氏ができないのでは」と言われた。そうかもしれない。
内容面以外でも、同期からは辛口コメントをいただいた。
「絞るのが早すぎなんじゃない?プロフィールで振るいにかけすぎてる気がする」
「夏にアプリを使った時、テンプレのキラキラした文章を使ったら、自分じゃない気がして気持ち悪かったから、素で行くことにした」
「プロフィール写真はキラキラ女子みたいなの使ってるのに、もったいない」
さらに、同期からの指摘は続く。
「なんで自分を好きになった人とだけ付き合おうとするの?先着順じゃないんだから、自分でも選ばないと!就活と一緒だよ。面接重ねて内定もらうでしょ?アプリでも、メッセージくれた人全員と会おうとするんじゃなくて、絞らないと。『いいね!』もらってからメッセージへの移行なんて、まだ一次面接終了しただけだからね」
同期の言葉に、なるほどと思った私は、とりあえず「いいね!」を300もらうまでは、誰とも会わないことに決めた。300人からハートを送られた後、メッセージに以降するのは30人。さらに、実際に出会うのは10人以下にしようと自分の中でルールを作った。
恋活市場において若さは最大の武器と言っても過言ではない。一週間も経たずに、「いいね!」は300を超えた。
「うわー、このプロフィールで300超えるとか、やっぱり若いって強い〜」
と同期からは炭酸の抜けたサイダーのような声で驚かれた。
同期には難色を示されたプロフィールだったが、前回よりも誠実そうな人から「いいね!」をいただくことができた。前述のとおり、メッセージのやり取りをした人全員とは会っていないため、本当に誠実かどうかは分からないが、少なくとも「めっちゃ外見がタイプなんで、早く会いましょうよ〜」というチャラ男はいなかったように感じる。
最終的に、350人からハートを送られた時点で、プロフィールが異性に表示されない「休止モード」へと移行した。そこから、メッセージのやり取りをしたのが30人。出会ったのは、わずか5人。なかなか高倍率なのでは。もっとも、たかだか私と会うのに倍率70倍の価値もあるのかと言えば、まったくないのだが。
さあ、未来の恋人を求めて!いざ出陣。
※
【No. 4】
名前 : 田中さん(仮名)
スペック : 大学職員。20代後半。
※
田中さんのプロフィールには、身長170センチとある。またまたそんなこと言って、160センチ前半かもしれない。もう身長には騙されないぞ!
……と思ったが、私はピンヒール大好き人間なので、太めヒールの冬用ブーツを持っていなかった。仕方なく、7センチほど身長を盛って、新宿へと向かう。
10分前行動が好きなので、ちょっと早く到着する。東口で待つこと約5分。
「ヨシナリさんですか?」
「あ、田中さんですか?はじめまして」
あっ!!!!プロフィール通りの身長だ!!ヒールを履いた私よりも背が高いぞ!!!
感激するポイントが早い。
「すみません、待たせてしまいましたか?」
「いえいえ、大丈夫です。私も今着いたばかりなので」
そして、爽やか好青年感。ちなみに、顔だけなら「いいね!」をしてくれた人の中で一番好みだった。
「じゃあ、昼ごはん食べに行きましょうか」
と彼は歩き出した。スマートじゃん!!良いじゃないですか!!
第一印象が良いだけで、ここまで後々の印象も変わるのかと、我ながら驚いた。
到着したのは、オシャレな洋風の定食屋。私はぼっちコミュ障なので、新宿などどいう大都会に足を踏み入れた経験は片手ほどである。
「もし混んでたら、他のお店にしましょうか」
「そうですね、私も探しますよ」
いくら来たことがないとは言え、他人に任せきりというのも申し訳ないので、お手伝いを申し出る。
「いや、大丈夫ですよ。僕は生まれも育ちも東京なんで、詳しいんです」
それなら余計な口出しをせず、相手に任せようと思った。
正午より少し前の時間帯だったが、あまり待たずに窓際の席へ案内された。それぞれが注文をした後、セルフ式のお水をいれてきてくれた田中さんは、申し訳ないんですが、と口をへの字にする。
「実は14時頃から友達と会う予定がありまして。13時50分頃に解散でも良いですか?」
「大丈夫ですよ。私はあまりこの辺に来ないので、せっかくなら本屋さんに行こうと思います」
陰キャはルミエなんて行かないのだ。本屋さん大好き!!
「読書好きって、言われてましたよね?普段、何を読まれるんですか」
反応に困っている田中氏。そう言えば、このセレクトを元書店員の先輩に伝えたら「大丈夫?なんか悩んでる?」と心配されたことを思い出す。
カシオレ好き女子を演じ忘れていたが、今さらキャラ変しても不自然なので、
「田中さんは読書はされますか?」
と話をそらすことにした。
「読書自体は好きなんですが、最近はあまり時間がなくて。ちょっと自分のやっている仕事が忙しくて」
「私もです。通勤電車で読もうとは思うんですが、深夜に帰宅することも多くて、スマホでツイッターを見ている間に駅に着いちゃうんですよね」
「分かります、それ。スマホいじるか寝るかのどちらかになっちゃう」
料理が手元になくても、会話が途切れないので苦ではない。
夏季休業期間を終えて、なかなかいい線を行っているのでは。
田中さんは総じて、爽やかな方だった。マッチングアプリでは、同日に立て続けでデートをいれることも攻略法の一つだと思われるため、本当に14時頃から「友人」と会うのかは定かではないが、ダラダラと長時間過ごさなくて良い分、気持ちは楽だった。昼食から、そのままデートに持ち込む戦法もあるそうなので、どちらが好印象かは人それぞれだとは思うけれども。
「大学時代から東京なんですか?」
「いえ、大学までは関西にいまして。東京へ来たのは、就職してからなんです」
「お、じゃあ初めての一人暮らし?」
「いえ、大学時代から下宿してたので、一人暮らし歴はそれなりって感じです。田中さんは、東京出身だと、今も実家暮らしなんですか?」
「いや、就職してから一人暮らしを始めました。実家が東京の田舎の方でして。大学時代はね、家賃とか生活費とかのことがあるから実家にいたんですが、やっと就職で出たところです」
「そうなんですね!私が西日本の田舎出身なので、田舎であっても東京で生まれ育ったのが羨ましいです」
「いやー、たぶん想像してるような東京じゃないよ。周りは高齢者が多いし、畑とかもあるし」
お分かりいただけるだろうか。コンピテンシー面接でなくても会話のキャッチボールができている感じが。
「上京する時は、親御さんも心配されたんじゃないんですか?」
「いやー、たぶんそんな心配してないと思います。大学時代に一人暮らしを始めた時も『お金は出すけど、手続きは自分でやってね』て投げられてたので、自分で不動産屋さんに電話したくらいですし」
「え、大学入学の時点で?困ったでしょ」
「困りましたね。当然、家賃相場を知らなかったので、5万円くらいでって適当な金額を言ったんですよ。それで、共益費込みで5万5千円くらいのマンションを契約したんですが、入学後に友達に聞いたら3万円台の子も多くて、相場より高いことが分かりました。まあ、親からは『相場より高くても、セキュリティとかしっかりしてるから良いやん』って、相場より高いことを許容されたので良かったんですけどね」
「それは、なかなかすごいね。大学生はあまりお金ないし、自分的には家賃安い所で暮らせば良かったって思うのも分かりますけど。東京での家探しも一人だったんですか」
「そうですね。今度は、お金の面も含めて、全部一人でした。ネットに、若い女の子は絶対に誰かに付き添ってもらうべきとか書いてたので、本当は親と回る方が良いんだと思いますけどね」
田中さんは目を丸くした。
「僕は、就職の時が初めてだったんですが、親に頼りまくってました。家探しも手伝ってもらいましたし、敷金礼金も出してもらいました。すごいですね」
「いや、自分が住む家を探しただけですし、別にすごくないですよ」
「ヨシナリさんって、若いと思えないほど、落ち着いてしっかりしてますよね」
ああ、これだよ。また、このパターンだよ。
トイレに逃げ込んで、深いため息をつきたい気分だった。
「それ、良く言われるんですが、まったくですよ。全然、しっかりしてないです。確かに、自分のことは一人で進められるので、親からも先生からもそう思われるんですよ。働き出したら変わるのかなって思っていたんですが、上司からまで『私たちが首を突っ込むより上手くやってる』とか言われる始末です。本当はそんなことないんですけど」
「しっかりしてると思うし、自信を持っていい部分だと思いますよ」
「そう言ってもらえるとありがたいです。自分から見た自分と、他人から見た自分って違うじゃないですか。自分にとって、最も差異があるのはこの部分だと思っているんです。私が他人に甘えるのが苦手なのも要因だとは思うんですが。本当は、もっと周囲を頼れば良いとは思うんですけど、すごい親しい人以外には甘えられないんです」
なぜか、自分の悩みを吐露する私。相手は大学職員である。
「あまり他人に助けを求めるのが得意じゃないんですか」
「相談までならできるんですが、例えば、自分の仕事を半分手伝ってもらうとかが苦手なんです」
「相手が親であっても」
「そうですね。私の両親は、還暦過ぎの高齢者の枠組みに入る人達なので、私がきちんとしなきゃって思うと頼れなくて」
田中さんは、私のどうでも良い悩みというか半分愚痴のような話を頷きながら聞いてくれた。
「すみません、余計なこと話して」
「いえいえ、気にしないでください。ヨシナリさん、色々なこと考えてて、本当にしっかりしてるよね。もっと自信持ってください」
「ありがとうございます……すみません、本当に。せっかく会ってくださったのに、楽しい話もできないで」
身を縮めて謝罪する私の心に、ぽっと言葉が飛び出てきた。物陰から突然、顔を出してくる子どものように。
まあ、いっか。この人と会うの、今日だけだし。
飛び出た言葉を殴る。貴重な時間を割いてくれた人に、なんてことを考えているのだ。私は心の冷たい人間だと、勝手に自己嫌悪する。
「すみません。そろそろ時間が……」
「あ、そうですね。気がつきませんでした。申し訳ないです」
「いえ、僕の都合なので。すみません、急かすみたいになっちゃって」
数時間なのが救いだった。
私は、心が沈んでいることを悟られないよう、笑顔でお礼を告げて別れた。きちんと帰り道には書店にも寄って、アメリカの小説を購入した。久々に手元へやって来た本を抱えると、本来の自分に戻ったような気がした。
その夜、田中さんからメッセージが来た。
「今日はありがとうございました。楽しかったです!今度は、もし良ければ一緒にビールを飲みに行きませんか?」
悩み相談会を開催してしまったのに、もう一度会いたいと言ってくれることに驚いた。きっと彼は、とても良い人なのだろう。
「こちらこそ、ありがとうございました。私も楽しかったです。ぜひ行きましょう!飲むの好きなんです!」
送信。
※
ついにヨシナリに春は来るのか!?
しかし、田中さんはまだ1人目です。残り4人に、運命の人がいる、かも。
お楽しみに笑