Weekly Yoshinari

Weeklyじゃなくてさーせん🙏🏻

チーズと私とマッチングアプリ⑪

前回まではこちら↓です。

https://yoshinari.hatenablog.com/entry/2021/03/13/220912

【あらすじ】

マッチングアプリを使い始めたが、逆に自己肯定感の低さから病んでいったヨシナリは、3人と会った後にアプリ卒業を誓う。

アプリ休止後、仕事の先輩とデートの約束をするものの、自然消滅。友人に相談すると「もっと遊べ」とアドバイスされる。

クリスマス前に熱にうなされながら、ヨシナリは考える。「このまま独りで死にたくない」と。

悩んだ結果、アプリを再開。5人の男と食事を試みたのだった。

 

「なんでヨシナリさん、彼氏がいないんだろうね」

「その質問、前の部署の補佐からも係長からも先輩からも同期からも、大学時代の友達からも先生からも、アルバイト先の先輩からも、高校時代の友達からも、両親からもされました。最近では、オンライン英会話の講師からも聞かれました」

現在の部署の係長からの質問に、私はくすくす笑う。

耳にタコができるほど聞かれてきたし、同じくらい悩んで、そして似たような励ましを受けてきた。

「私が聞きたいくらいです。なんで、できないんでしょうね」

返答も、だいたい同じだ。

問題は何一つ解決しないまま、彼氏いない歴だけが更新している。

ただ、変わったこともある。それは、自己分析ができるようになったこと。

「色々考えて、最近になってようやく気づいたんです。彼氏がいるとか、結婚するとか、そういう要素は自分にとってそこまで重要じゃないのかもって」

「結婚したくないの?」

係内少数派の既婚者である係長は、驚いたように聞き返す。

「そういう訳ではないんですが……根本的に、自分はモテないんです。だから、本気で結婚したいなら、婚活とかしないといけないと思うんです。だけど今の私には、そこまでの余裕がなくて」

「モテないことないとは思うんだけど……」

「それも良く言われますが、私はモテたことないです。それに、今の仕事は出会いが職場内しかないでしょ。来年には、また別の地方へ異動ですし。ちょっと難しいですよね」

「……ほら、隣の席の先輩とか。隣の係の××さんも、もう40歳過ぎてるけど独身だし」

「……ほら、選択肢、限られてくるじゃないですか」

無理やり候補を挙げてくる上司に、私は冷静に突っ込む。

 

8人目の中村さんと会った後、私はマッチングアプリを退会の上、アンインストールした。選んだ退会理由は「他に出会いがあったから」。

これは正しくもあり、間違ってもいる。

「私、出会いがなさすぎて、マッチングアプリを使っていたんですよ」

「あー、今、使ってる人多いですよね。私も使い始めたんですよ。ヨシナリさんは、いい人と出会えました?」

私がマッチングアプリを使っていたことを飲み会で話すと、だいたい食いつかれる。マニュアルのような質問をされる。

東京から信州へ異動して、約半年後。職場の女の子とご飯へ出かけた際に、マッチングアプリの話題になった。同僚にも敬語なのは、職場の雰囲気によるものであり、決して仲が悪いからではない。

「出会えたかと言われれば、出会えたって答えますかね」

私の回答も、変わり映えがしない。

答えながら、私は自分と会ってくれた相手の顔を思い浮かべる。一度しか対面していないから、ちょっと脳内補正されているけれど。

変わった人もいたが、好感を持てる人が多かった。特に、冬に出会った方々は、もう一度会ってもいいかもしれないと思ってしまったほどだ。

「彼氏はできました?」

「できてないです」

「どうしてですか?」

「色々と理由はあると思うんですよ。コロナだったからとか、私が仕事が忙しかったからとか……だけど、たぶん、これらはただの言い訳なんです」

何か飲みますか、と私は彼女にメニューを差し出す。じゃあサワーで、と彼女は店員さんを呼んだ。カシオレとサワーと唐揚げを頼み、私は彼女に向き直る。

「ちょうど最後の人と会い終わったくらいの時、他の人から告られたんですよ」

「おお、おめでとうございます。職場の人ですか?」

「まあ、そんな感じです。その時はね、その人と付き合おうと決めたんです。だからアプリを消したんです」

全て、過去形だ。そんなこともあったなと、もう笑いながら話せるようになった。

「やっぱり人間、身近な人に惹かれるんですよ。変な話をすると、客観的に見たら、職場の人よりも条件が良い人ともアプリで出会えていたと思います。だけど、私には無理だった」

「なんで無理だったんですか?」

「アプリの人って一度しか会ってないでしょ?対して、身近な人は関わりも多くて、アプリで出会う人よりは深く知っています。初対面の人と数回以上も顔を合わせた人とを比較してしまったら、どうしても、数回顔を合わせた人に軍配が上がってしまうというか」

もちろん、逆のパターンもあると思う。何回も会ったからこそ、知り合いには欠点にも目が行ってしまい、悪い点が隠れている初対面の人にほど惹かれてしまう人もいるだろう。そのような人はきっと、マッチングアプリを上手に使いこなせる人だ。

ただ、私の場合は違った。

休憩モードに入る前の初夏から晩夏の使用期間において、私は周囲の人と目の前にいる相手を心の中で比較してしまった。自分の周囲にいる全員の方が相手より優れているわけはないのに。そして、休憩を終えてアプリを再開した時も同様に、心のどこかで、彼らと自分の知り合いを比較してしまっていた。私は自分の周囲にいる人のことが、欠点も含めて人間として好きなのだと思う。

「自分の実際の知り合いと比較したらダメだってことです」

簡単にまとめた私の言葉に、彼女はうんうんと頷いた。

「分かります。私の周りにも、良い人はいるんです。だけど、上手くいかない。この人とあの人を足して2で割ってくれたら、とか思っちゃったり。そのせいか、実際にアプリで会っても、なんか違うんじゃないかとか思って、上手くいかなかったり」

「自分の理想像みたいなのを作っちゃってるんですかね」

「そうかもしれないですね」

二人で恋愛迷子をこじらせて、唐揚げを頬張った。

「それで、告ってきた人とはどうなったんですか」

「音信不通です」

「どういうことですか、それ」

「そのまんまの意味です。私が異動して遠距離になって、連絡が途絶えました。まあ、その前から私の仕事が忙しかったし、コロナだったりしたので、まったく会っていないに等しいんですけど。お互い東京にいた時から、連絡もほぼ取っていなかったですし」

時々、ふと思う。私は、アプリで会った人と「2回目」へ駒を進めるべきだったのかもしれないと。そうすれば、遠距離になっても辛いことがあっても、お互い励ましあえる関係性に発展できたのかな、とか。

もう、考えても無駄なことなのだけれど。

「別れたんですか?」

「いや、それが、音信不通なんで付き合ってるのか別れているのかも曖昧なんですよ。だから、このまま別の人と付き合ったら、それは浮気なんだろうかとか、別の悩みが浮上してしまってます」

歯切れ悪く答えながら、私はオレンジジュースの割合が多いカシオレで、喉をベタつかせる。日本酒を頼めば良かった。

「いや……それは付き合ってるって言わないだろうし、別に良いんじゃないですかね。他の人と付き合っちゃっても」

「係長からも同じこと言われました」

「あの係長からも言われるなら、きっと総意です。正しいです」

上司への絶対的な信頼感をもとに、彼女は自分の考えを補強した。

 

失敗を恐れるな。

偉人も友達も、私にそう助言する。失敗しても次がある。結果よりも過程が大事。

それでは、結果を得られていない私の手元には、何が残っているのだろう。どんな過程があったのだろう。

マッチングアプリを使ってみて気づかされたこと、そして自分にとって最も大切だった気づきは、根本に立ち返ったような問いに凝縮される。

 

今の私にとって、本当に彼氏は必要ですか?

 

Aくんと付き合っていた時、私は自分の夢を叶えることに必死だった。私も彼を含めた友達一同と温泉旅行へ出かけていたら、温泉事件は勃発しなかったかもしれない。けれども、あの時に勉強をやめていたら、今の自分はなかったかもしれない。

Aくんと自分の夢を天秤にかけると、絶対的に自分の夢が重かった。Aくんと会う時間や電話をする時間は、生活においてさして重要ではなかったのだ。よくInstagramカップル漫画を読んでいると「彼氏と話すと心が軽くなる」という表現を見かけるが、私は彼の不真面目に苛立ちを覚えこそすれ心が軽くなることはなかった。

彼も同じだったのかもしれない。なんで会ってくれないんだ、なんで塩対応するんだ。これだけ性格が真逆だと、苛立ちもするだろう。不満も溜まっていたことだろう。

私が彼に時間を割かないことが、その後の喧嘩の遠因にもなったのだと思う。

 

翻って、現在の私の夢は、海外留学することだ。帰国子女でもなく、学生時代の英語の成績も底辺だった私にとっては、夢のまた夢にも思えるようなことだ。

海外の大学院へ進学するとなると、最低でも1年間は時差を超えた遠距離恋愛だ。遠距離恋愛をするということは、当然留学前に誰かと付き合う必要があるが、今の私に勉強とお付き合いを両立する余裕はない。LINEのやり取りくらいなら大丈夫だが、「毎日声が聞きたい」と言われた日には怒り狂う自信すらある。1か月に電話2回までなら対応可能だが、マッチングアプリで出会う見知らぬ男性に対して、そんなチャットレディのような対応ができるはずもない。

今の私にとっては、大学時代からの夢を叶えることが、限りなく大事なのだ。

 

「私、早く結婚したいんです。彼氏がいる人が、本当に羨ましい」

職場の女の子にとっての夢は、結婚すること。結婚して子どもが生まれてからも、今の仕事を続けていくこと。

私とは違う。

でも、それで良いのだと思う。

「だから、マッチングアプリ使ったり、街コン行ったりするんですけど、なかなか上手く行かないんですよね」

彼女は、私のマッチングアプリ体験談を聞いて、くすくす笑った。

「私みたいに、ちょっと変わった人には会ってないんですか。ご飯代を盾に2回目のデートを約束させられたり」

「うーん、まだないですね。これから分からないですけど」

「これからも変な人と会わないことを祈っています」

「ヨシナリさん的には、アプリで彼氏ってできるものだと思いますか?」

良い人とは出会えた。でも彼氏はできなかった。そんな私に対して、大抵聞かれる質問の1つだ。

だから、私も既に、頭の中では考えをまとめている。

「できると思いますよ。誰でも良いなら。彼氏を作ることが目的か、理想の彼氏が欲しいのかで変わってくるんじゃないんですかね」

「理想の人だと、難しい?」

「そうですね。日常生活でも理想の人に出会うの難しいんですよ。アプリなんて尚更でしょ。相手のバックグラウンドなんて、ほとんど知らないんだから」

それでも、アプリで理想の相手と巡り会ったという体験談もネット上では見かける。これは運次第としか言いようがないのではないだろうか。

「ヨシナリさんは、もうアプリしないんですか」

「絶対やらないです。私には向いてないから。だから、私の分まで頑張ってください」

私たちは、お互いに頑張りましょうと健闘を祈って、デザートの注文へ移った。

 

私はもうすぐアラサーに足を踏み入れる。周囲が「今の彼氏といつ結婚しよう」と話すのを耳にすると、漠然とした不安感が湧き上がることがある。結婚以前に、相手がいないのだから。

「彼氏ができる5つの方法」

「モテる人とモテない人の違い」

そんなコラムを目にしてしまい、落ち込むこともある。私の短所をあげつらわれているような気持ちになるから。

だけど、その記事にある行動を真似してまで、私は誰かを欲していない。

負け惜しみだと、モテる人からは笑われるかもしれない。自信の無い自分から逃げてるだけだと言われたとしても、これが今の私の答えだ。

 

現状、私は死ぬまで独りでいる可能性が高い。最も、人間が死ぬ時はいつも独りなのだけど。悲しむ人がいない分、気持ち的にはラクかもしれない。

「35歳の誕生日に独りなら、関西に戻ろうかなって。市役所とかに転職しようと思います。一人暮らしには公務員の給料で十分でしょ?それで、ネコ飼いたいんです。マンチカンが良い。あと、毎年、海外旅行したい。習い事もしたいかな。書道とか、語学とか」

私は本気で話しているのに、周囲は、また変なことを言い出したとばかりに笑い出す。

「大丈夫だって。そんなこと言っても、あなたは5年後には結婚してるから」

大丈夫ってどういう意味?結婚しててもしていなくても、私は大丈夫。独りのままでも哀れじゃないから。

周囲への返答を胸にしまい、直近5年間でやりたいことをノートに書き出す。もちろん、大好きなチーズとチョコレートを頬張りながら。

こんな日が続くなら、今のままでも良いかなって。

自分を救うのは、いつだって自分しかいないのだから。

 

11回にわたる「チーズと私とマッチングアプリ」は今回で終了です。今回は本当に終了です。もう少し書きたいこともあったけれど、それはこの2か月以上の雑文の焼き直しにすぎないことに気がついたので、これで締めくくろうと思います。

マッチングアプリの体験談はネット上に数多く転がっていますが、自分の価値観まで踏み込んだものは少ないと思ったので、出会った男性のことよりも自分の考えをメインに書いたつもりです。若い人がどのような思いでマッチングアプリを使うのか、ご参考にしていただれば幸いです。いえ、知ってます。まったく参考にならないであろうことは。

これからも細々と雑文を書き続けていこうと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。