Weekly Yoshinari

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【2023年上期】読書記録と雑感

デジタル化の恩恵だ。昨年冬にKindleを購入して以来、自宅にいながら好き放題の本を手にできる環境を得た。いわば図書館で寝泊まりしているようなものだ。電子書籍の定額読み放題サービスであるKindle Unlimitedにも加入したので、文庫本1冊と同程度の価格で指定タイトルを読み漁れるようにもなった。本棚の空きスペースに悩みながら、月初めに3冊程度の文庫本を購入していた半年前と比較すると、これは画期的な進歩である。Book wormからBook Butterflyに羽化したと言ってもいい。蜜を求めて花から花へと飛び移る蝶々のごとく、新書にミステリー、ファンタジーと、自分の気持ちが向くままに活字を追っていける。

幸せだった。飽きるはずもない。世界には見たことのない花が咲き乱れているのだから。

 

Kindle Unlimitedのお陰で出会えた作家といって真っ先に思い浮かぶのは、恒川光太郎だ。幻想的という言葉が似合う作家は、恒川光太郎氏以上にいないだろう。

何も考えずに選んだ『南の子供が夜いくところ』(角川ホラー文庫は主人公のタカシがたどり着いた南の島をめぐる連作短編だが、幸運と死と不運と甘さが引っ掻き回されて、虹色が灰色になっている世界に虜になった。その後、彼の作品を手あたり次第に読み、読後は仕事終わりにビールを一気飲みしたときのような清々しさに浸った。

数作品のうち最も心に残っているのは、氏のデビュー作でもある『夜市』(角川ホラー文庫だ。妖怪が開く市場に迷い込んだ少年の話は、小学生の頃に夏祭りへ行った高揚感とともに、友達同士で肝試しをした鼓動の高鳴りを思い出す。同作品に同時収録されている「風の小道」も同様に、妖怪や死者の暮らす世界へ足を踏み入れてしまった少年が旅する物語なのだが、映画にもなりそうな独特な世界観に圧倒させられた。本作はホラー小説大賞受賞作だが、ホラーというよりも神話の日本が現代社会にもひっそりと佇んでいるかのようなファンタジーの要素が強い。洋書に出てくるような魔法や超能力をはじめとする、派手な要素はない。だが、室町時代の絵画に入り込んだような異世界だって、ファンタジーと呼んで差し支えないはずだ。西洋を舞台にした作品が好きな自分にとって、中世や近世の日本を舞台にした作品がお気に入りリストに仲間入りしたのは嬉しい誤算だった。

また、かつて図書館で借りていた本を再読できたことも喜びのうちの一つだった。ドラマ化もされた『ビブリア古書堂の事件手帳』(三上延メディアワークス文庫だったが、大学入学前に6巻を読んだのが最後になっており、最終巻や続編が登場したことすら知らずにいた。それゆえKindle Unlimitedでタイトルを見つけた時には、ティーンエイジャーに戻った気分になった。古書にまつわるミステリーは、本好きならば年代を問わずに魅かれてしまうものである。

さらに、久々に『暗幕のゲルニカ』(原田マハ、新潮社)などの原田マハ作品を読むことができたのも嬉しかった。アートを題材にした本ならば『恋する西洋美術史』(池上英洋、光文社新書のような新書ならば一定数あるが、本格的なアートを題材にした小説は少ない。だから原田マハ作品は貴重だ。表紙を見ただけでわくわくする。残暑になれば、美術展にも行きたいものだ。

先ほど、恒川光太郎作品がお気に入りになったと書いたが、そう言えば高校時代に気に入った作品の一つに『私たちが星座を盗んだ理由』(北山猛邦講談社文庫)があった。ミステリー短編集である本作品も幻想的な世界観を持っており、ここではないどこかを彷彿とさせる恒川作品に通ずるものがある。8年ぶりにKindle Unlimitedで再読したが、今でも変わらず素敵な作品だと感じた。そして、見事にオチは忘れていた。記憶力が衰えているお陰で、何度も楽しめてラッキーだ。

10年前から私の好みは変化しておらず、恒川作品を好きになるのは必然だったのかもしれない。

 

Book Butterflyになり、世界を飛び回っていた私。しかし最近、この状況は本当に幸せなのかと疑うようになった。

Kindle Unlimitedでも『海と毒薬』(遠藤周作新潮文庫『戦争は女の顔をしていない』(スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ、岩波現代文庫のような後世に語り継がれるべき名作に親しむことができる。だが、月替わりで対象タイトルが変わるとはいえ、Kindle Unlimitedのみからお気に入りの作品を探すのには限界がある。それでも「定額だからたくさん読まなければ」と考えてしまい、興味の薄いエンタメ小説であっても対象作品であることを理由に読んでみたりした。

はたして、これが正しい読書なのだろうか。自分の心が満たされているといえるのだろうか。

読み放題という環境のせいで、自分がその時々に心の底から欲している作品から離れてしまうようになったのだ。毎月3冊購入と決めていた時の方が、1冊の作品と世界を大事にできていたようにも思える。これは乱読の弊害とも言えるだろう。

サブスクリプションは手軽だ。だからこそ、自分の直観をもとに別世界を掴み取っていく大切さを知ることにもなった。自分の心を本当に震わせる作品は何か。逃げ出したい世界はどこにあるのか。もう一人の私との対話を忘れては、定額サービスを使いこなせない。

Kindleでは度々、Amazonポイント還元まとめ買いセールを開催している。この機会を利用して、自分が本当に好きな作品も購入するようになった。お陰で、カズオ・イシグロ作品を読破することができた。気が狂いそうになる充たされざる者』(ハヤカワepi文庫)を何度でも、どこでも楽しめるのは電子書籍で購入したお陰だ。もちろん、一番お気に入りの『わたしを離さないで』(ハヤカワepi文庫)も繰り返し楽しんでいる。読み返しすぎて、もはや数えていない。これからも少しずつ、自分の電子本棚を充実させていきたいものである。

 

最期に、下半期の私の読書目標を2つほど。

一つ目に、フィリップ・K・ディック村上春樹の作品をこつこつ購入すること。

特に、前者は『人間以前』(フィリップ・K・ディック、ハヤカワ文庫SF)のような短編集をたくさん読みたい。『時は乱れて』(フィリップ・K・ディック、ハヤカワ文庫SF)のような長編も良かったけれど。人間の心の底を抉っていくディック作品は、辛い時期を乗り越える支えとなってくれるだろう。

村上春樹作品は、以前から読んでいるが、実は長編作品を読破できていない。設定や男性主人公の独白には賛否両論でもあるが、私は彼の表現力と比喩を真似できないので、読む時はいつも新しい視点を得ることができる。なるほど、これが日本文学かと。気持ち悪い男性だと顔を顰めながらも、村上春樹作品を読むのをやめられないのは、この新鮮な表現を思う存分に吸い込みたいからだ。

二つ目に、洋書を読むこと。

最近、英語力がだだ下がりしている。これでは大学院の授業についていけないという危機感はあるのに、一向にやる気が湧いてこない。手始めにハリーポッターシリーズを読み始めてみた。英語学習に用いようと考えている人は多くいるだろうし、私もその一人なわけだが、実は以前に挫折している。時間をかけても一向にページが進まず、イラついてしまったのが原因だった。日本語よりも読む速度が落ちるのがもどかしいが、諦めずに読み進めていきたい。