Weekly Yoshinari

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チーズと私とマッチングアプリ⑥

前回はこちら↓です。

チーズと私とマッチングアプリ⑤ - Weekly Yoshinari

【あらすじ】

マッチングアプリを使い始めたが、逆に自己肯定感の低さから病んでいったヨシナリは、最後にデートの約束をしている3人目と会った後にアプリをやめようと決心する。

最後に出会ったのは東大卒エリート。頭は良いが、二癖ある変人から「2度目のデート」を約束させられる。逃げろ私。

 

【No.3】

名前 : 高橋さん(仮名)

スペック : 東大卒。有名企業に勤務する30代前半。

「じゃあ、こうしましょう。僕と次回もデートする気ありますか?2回目のデートをする気がないなら、この場で博物館代もご飯代も返してください」

高橋さんの得意気な顔が、頭の中をチラついた。

彼の言うとおり、私は生真面目である。約束は守らなければ気がすまない。悪法もまた法なり、とはよく言ったものだ。

それでは、この約束も守らなければならないのか。絶対に付き合う気のない男とのデート。

私は頭を抱えた。悩みすぎるのは駄目だと思い、その日はすぐにベッドにもぐった。

 

翌日、高橋さんからメッセージが届いた。

「昨日はありがとうございました!!またお話しましょう!僕はどこでも行くので」

私はどこにも行きたくないんです。

とは書けないため、愛想良くニコニコ顔文字入りで返信をする。

「こちらこそ、ありがとうございました!またお会いしましょうね」

ベスト・オブ・無難。当たり障りのない回答が一番だ。しかし「2度目のデート」を予約してしまっている身であるので、これだけでラリーが終わるはずもない。

「行きたいところがあったら言ってください」

だから、どこにも行きたくないんですって。

とは言えないため、私はめちゃくちゃなことを書いた。

「変り種の料理が食べたいです。私、関西にいた頃はとんかつパフェとか食べてたんですよ」

「それは、もっと仲良くなってから行きましょう」

「それは残念です。じゃあ、普通にカラオケで」

とんかつパフェを食べる気ないなら、二度と会わない!!と言えば良かったのかなとも思ったが、それではご飯代を人質にする男と同じ行動をしてしまう。どのような回答にせよ「2度目のデート」を回避したいことに変わりはないため、私は塩梅な道を選んだ。

「分かりました。じゃあ、また休みの予定が決まれば連絡します」

「私から連絡しますよ。ちょっと仕事が忙しくなる予定で、いつ連絡できるか分からないので」

「了解です。お互い体調には気をつけましょうね」

返信は、私から。

フェイドアウトには、ちょうど良い区切りだと思った。

 

その夜から私はしばらく、高橋さんのことを考えた。恋焦がれて、ではない。罪悪感だ。

彼はおそらく期待を抱いている。もしかしたら、この子と付き合えるのではないかと思っている。そして逆に、私が「高橋さんとお付き合いしたいです!」と申し出れば、全てが丸く収まり、平和的解決で幕を閉じそうな気がする。

私は次回、彼と出かける。その後、どうなるのだろう。「3回目のデートで決めろ!」という神話を信じるなら、まだ2回目はセーフラインだ。何もないはず。

……いや、1回目の深夜でカラオケに誘ってくる男だぞ。しかも、会う前のメッセージが「僕、我慢できなくてせっかちなんです」だったし。ノリからすると「身体の相性確かめたいんです、ホテル行きましょう」とも続きそうな文面ではないか。

Aくんと付き合う前もこんな気分だった。

悪い人ではない。一緒にいて、話が途切れるということはない。でも、何かが違う。

違和感を持ちつつも即切りできないのは、まず「期待を持つ相手を裏切ることはできない」というこの場に不要な法令遵守精神。次に「私のことを好む人はこの世に限りなく少ないのだから、頭がいい・話が通じる等の最低条件をクリアしているのなら断る理由はないのでは」という自信のなさ。たぶん多くの人は、一定数の異性に好いてもらえるのだろうが、自分にそれは望めない。選べないなら誰でも良いじゃないかと、だんだん投げやりになる。私の悪い部分だ。

生理的に無理というほどじゃない気がする、と私は彼を思い出す。突然笑い出す部分とかは好みではないけれど、時間が経てば解決してくれるだろう。負けると悔しいのなら、桃鉄お家デートは楽しめないかもしれないが、それなら他に楽しめることを探せば良いだけだ。外見も、プロフィール写真よりは老けているが、自分より約8歳上だと考えると、一般的な外見なのかもしれない。

頑張ったら付き合えるかな。自己暗示かけたら好きになれるかな。

そこまで考えて、気がつく。

無理してまで頑張る必要はないということに。

たとえ、この人以外に「もう一度ヨシナリさんとデートしたいです」と言ってくれる人が現れなくても、だ。彼と付き合い続けるなら、一人の方が何倍も楽しい。彼に使う時間は、私が自分自身を楽しませるために使うべきだ。映画を観たり、本を読んだり、勉強したり。博物館や美術館だって、一人で行けばいい。彼の機嫌に気を遣わず、思う存分、アートな空気を吸い込めばいい。

誰かと付き合うこと。それは、自分の何かを少なからず犠牲にして、妥協していくことだ。どれだけ仲が良くても、相手は自分のクローン人間ではないのだから、衝突することはある。折り合いをつけなければならないことだってある。

問題は、自分の意見を妥協できる相手かという点だ。

「この人の言うことなら、自分と違う意見だけど信じてみよう」とか「どちらの意見も取り入れて、第三の意見を考えてみよう」とか。自分の意見とは、精神的な自由に基づくものであり、誰かに転向を強制されてはならない。だから、意見を変えるならば、自分の意志によらなければならない。少なくとも私は、信頼できない相手や尊敬できない相手に対しては、自分の考えを妥協することはできない。

私は、高橋さんのために何かを犠牲にしたくはない。悪い人ではないが、尊敬はできない。彼と付き合うがために、自分の夢や楽しみを諦めることはできなかった。

次の予定は、自分から連絡すると伝えた。つまり、私から連絡しない限りは「2回目のデート」はやって来ない。「次回」を約束しつつも一度きりなんて、アプリでは多いことだという。

私は彼のトークルームを非表示にした。

 

トークルームを非表示にして一週間後。夏季休暇中だった私に、メッセージが届いた。

「僕と会う気ないんですか?」

返信をしていないところから察して欲しかったが、無視もできない。私は言葉を選びながら返信した。

「どのような意図での質問かは分かりませんが、カラオケは行っても良いけど、それより先の関係については悩んでいます」

ここで「すみません。考えた結果、お会いしないことにしました」とか率直に伝えられないのが、私の八方美人さである。二度と会わない相手にどう思われようが、私の今後に一切関係ないとは理解しているが、突き放すことができないのだ。

「思わぬ返答に驚いています。僕は、お付き合いを前向きに考えていたのですが……。でも、ヨシナリさんが僕に対して可能性を見い出せないなら、僕から何も言えません。もう一度考えてもらって、お返事ください」

私は彼を傷つけないような言い回しを考える。思っていたことそのままの理由を、正直に。

「高橋さんは良い方だと思います。ただ、私と高橋さんの考える将来像は異なっているのではないでしょうか?私は将来、留学するのが夢です。1年間以上も私が海外で暮らすことに、耐えられますか?たった一度お会いしただけて判断するのは恐縮ですが、高橋さんはこのような状況には耐え難い方ではないかと思いますので、将来を見据えたお付き合いを考えられるなら、他の方が向いていると思っています」

彼からの返信は早かった。

「確かに自分の考える人生設計とヨシナリさんの考える人生設計は違いますね。残念ですが、これ以上の進展は難しいですね。短い時間でしたが、ありがとうございました。お元気で」

ご飯代を引き合いにしてまで二度目のデートの約束を取り付けたくせに、彼は私に見込みがないと分かるとあっさり引き下がった。彼を傷つけないようにと遠回しな返信ばかりしていた自分が馬鹿らしくなるほど。

高橋さんは、年齢のこともあるかと思うが、人生設計を非常に大事にする人だった。たとえ会話や雰囲気が好みに合ったとしても、自分の人生設計にそぐわなければ、違いを乗り越えようとする姿勢は見せない。

彼が「気に入っている」や「お付き合いも視野に」と言うのは、私の人柄が好きだったからではない。社会的に見た時に「自分の人生設計上のパートナー像に合致している」からだ。私は、若い&平均身長&平均体重&顔面偏差値50&程々レベル大学卒&それなりの収入の正社員という日本の平均的な20代女性だ。彼にとっては許容範囲内の条件が揃っていたのだろう。

「こちらこそ、ありがとうございました。お元気でいてください」

お礼を送信し、私は再度、トークルームを非表示にした。

私の短かったマッチングアプリ利用期が終わった。

途端に、どっと疲れが湧いてきた。

コミュニケーション能力が低く、根暗で、インドア。単独行動も苦に思わない性格の自分が、初対面の異性と立て続けに食事できたことが、我ながら驚きだった。

自分に向かないことなどするべきではない。

ともかく、彼氏が出来なかったとはいえ、アプリで人と出会えることは分かった。謎の達成感。

おめでとう私!

 

全6回にわたる「チーズと私とマッチングアプリ」シリーズは、これで終了です。ご愛読ありがとうございました!!!

1月から週末ごとに更新をしたところ、先月は今までよりもたくさんの方にブログを訪問していただけたようです。拙い文章に目を通して下さる皆様に、心から感謝しております。仕事も忙しく、なかなかブログのタイトルどおり「Weekly」の更新とはまいりませんが、引き続き温かく見守っていただけますと幸いです。

 

……とはなりません。これが折り返し地点です。まだまだ続きます(笑)

「え!アプリやめたんじゃないですか!」

そうは問屋が下ろさない♡♡