性格的に、君に留学は向かないと思う。
留学前に様々な人から忠告されていたことだ。そして、自覚もあった。海外生活も大学院留学も憧れではあるし、叶えたい夢の一つだが、絶対に自分の性格的に向いていないであろうと。
私はかなり内向的な性格で、流行りのmbti診断でも、建築家(INTJ)という結果が出ている。
完璧主義、個人主義、責任感が強い、頑固、パリピが苦手……確かに、眉唾ものだと思っていた建築家タイプの説明の9割は自分に当てはまっている。
後輩が「ヨシナリさんになり切って診断しました!」と送付してきた結果も建築家だったので、親しい人にとっては、私の内向的でネチっこい性格を良く理解していただいているようだ。(←すぐに皮肉を言うのもINTJ。)
このような性格の私にとって、海外大学院留学なんてハードルが高すぎたのである。
しかし、即刻退学したい気持ちに駆られたとしても、スポンサー付留学である自分に逃げ道はない。よってトラブル直面時におけるマインドセットは「耐えろ、これは仕事である」となった。
表向きには学生だが、本当は学生ではない。これは仕事なのだ。大学院で修士号を取ることが、私の職務である。仕事である以上、何とか結果を出さねばならない。
意気込んで割り切ろうとするものの、辛いものは辛い。
まず、ルームシェア生活が辛い。徐々に慣れてはいるが、キッチンや洗濯機を思い立った時に使えないストレスから解放される日は来ないと思う。
次に、グループワークが辛い。異なる文化圏で生きてきた21歳の子とは共通の話題にも乏しい。日本の小説の話ができないのは当たり前として、10歳近く年齢が違うとキャリアの話もできない。そんな彼らとグループワークをするのが、こんなにもメンタルを削られることだとは。
これらの辛さが自分の低い英語力、とりわけスピーキング力によるものだとは分かっているが、スピーキング力を伸ばそうと奮起して交流の場に顔を出すような性格ではないので、悪循環に陥っているというわけだ。そもそも、日本語で話すのもヘタクソなのに、英語で上手に話せるはずがない。
甘ったれるな!スピーキング力向上のために、頑張れよ!
そう叱咤する人もいるだろう。
だが、同じ内向的な人なら分かってくださると思うが、集まりに顔を出すことは溶けた鉄をポタージュ代わりに飲まされていることと等しく、心理的負担が尋常ではないのだ。イベント解散後やベッドに潜り込んだ時も「誰かを傷つけるようなことを口走らなかっただろうか」とか「どうして余計なことを話してしまったのだろう」とか、心配と後悔が交互に襲ってくるので、精神的疲労が酷い。
自分を痛めつけてまで、交流の場に顔を出さないでも良いかなという判断に傾いてしまうわけである。
友人が一向に増えないまま心に積もっていくのは、早く日本に帰りたいという願望だけだった。
汚すぎるゴミ箱やシャワールームを見ては肩を落とす。日本なら誰を気にすることもなく掃除や洗濯ができた。物音を伺って、ルームメイトがキッチンを使用していないタイミングを見計らう能力も必要なかったし、疲れた日にはコンビニに寄ればご飯も買えた。落ち込んだ日にはバスソルトをたっぷり入れた湯船につかり、甘い香りのするボディスクラブで、ふくらはぎマッサージをして心を落ち着かせられた。気分を上向かせたい日には、ハイヒールとタイトスカートを身にまとえた。最近読んだ小説の感想を聞いてくれる友人達もいたし、ビールを乾杯できる同僚達もいたし、政治や哲学談義に花を咲かせられる後輩達もいた。
ここでは、今までの人生で楽しめていたことを何一つできない。
海外なんて、もうたくさんだ。早く日本に帰りたい。日本に帰ったら、すぐに婚活して、31歳までに結婚して、33歳までに子どもを産むんだ。一部の優秀な人のように、世界を飛び回って仕事をしないでいい。そんなのは、ハーバードやケンブリッジに留学した秀才達に任せる。自分には穏やかに日常を紡ぐ人生が向いているのだ。
末期のようなこの心理現象。俗にいう、ホームシックである。それもかなり重度の。
プライベートにおいて、私は誰かと頻繁に連絡を取るタイプではない。親とさえも誕生日とお盆と正月くらいしか連絡をしない。相手から返信がなければやきもきして平穏が乱されるし、逆に自分が忙しい時にメッセージを送られると早く返信せねばと焦ってしまう。心をかき乱されない方法が、日常的な連絡を誰とも取らないことなのだった。故に、私はLINEの通知を切っている上、メッセージ送付後はトークルームを非表示にする習性がある。目に入らなければ気にならないだろうという精神だ。
しかし、ここに来て、日常的に誰かと連絡を取らないことによる孤独を存分に味わうこととなった。日本語でも英語でも話す人のいない辛さ。誰かと感情を分かち合えない辛さ。孤独との戦いだった。
渡航して2か月が経った頃に耐えかねて、母親に電話しても良いかと連絡してみた。前代未聞の娘からの連絡に、親は何を考えたのだろうと少し気になる。8時間の時差を超え、数か月ぶりに母親と話した。電話を切り終わっても涙が止まらなかった。当時は「シュタインズ・ゲート」を観ていたのだが(←今更すぎる。)、オープニングの「悲しみの無い時間のループへと飲み込まれてゆく孤独の観測者」という一節に「孤独の観測者って、私のことやん!!(←違う)」と主人公の境遇に自分を当てはめて(←大げさ)さらに泣いた。
母親との電話を終えた翌週には、同じように海外大学院に留学中である友人と電話した。開口一番から泣きそうになっていた友人と「私たち、若者の中に入りながらヨーロッパでめっちゃ頑張ってるねんな!」と励まし合ったものの、案の定、電話を切った後に涙がボロボロ溢れてきた。
なんとメンタル崩壊寸前。止まらぬ涙に自分の精神の安寧が危ぶまれていることを悟ったのである。
大学院卒業まで、あと1年半以上も残っている。このままだと、修士号取得までにメンタルを壊してしまいかねない。
さあ、どうしよう。海外生活に楽しみを見出していくためには、どうするべきか。他人との交流を自然に増やしていければなお良し。
まず目をつけたのは、学内サークルだった。コース外に所属先を見つけ、他人との交流を自然に増やせば良いのではないかと考えたわけだが、学内サークルのほとんどはスポーツ関係だったので諦めた。私は体力テストでD以外を取ったことがないほどの運動音痴なのだ。走り方のフォームを笑われたり、真似されたりしたのがトラウマなので、ヨガやピラティスすら人前で挑戦するのが怖い。
次に、留学生支援サークルのWhatsAppグループに参加してみた。小旅行やナイトイベントなど、留学生の輪を広げるための活動が定期的に行われているようだ。しかし、ここで発生した問題は、イベントの開催時間と授業時間が絶妙に合わないということだった。例えば、小旅行は金曜日から日曜日の3日間で開催されているが、私は毎日授業が入っているので、時間的な余裕はない。おそらく、これらのイベントは正規留学生を対象としておらず、コマ数の少ない交換留学生向けのものなのだろう。
最後に、同じく留学生支援サークルが提供しているTandem(言語交換)グループに登録してみた。イタリア語を学びたい私が日本語を学びたい他学生と出会うことで、利害の一致による異文化交流、並びに友情関係が育まれていく制度だ。こちらはめでたく、登録2週間後に半年間の日本への留学経験のある男子学生が見つかったが、メールをしているうちにいつの間にか返信がなくなり、直接会う約束も白紙となった。
うん、試してみたけど無理だな。
手を尽くした結果、私はコミュニティ探しを諦めた。
もともと内向的なのだ。誰かを探すことで成立する活動よりも、自分一人でできる趣味や活動を見つけた方が良い。もちろん、一人旅や美術館巡りは趣味の一つだし、定期的に各地を巡ることに楽しみも覚えているが、もっと日常を明るく過ごせる心の拠り所となるような趣味がほしい。
こうして、ホームシック解消を目的に、下記のアカウントが誕生した。
さて、前置きが長くなりましたが、海外生活を楽しむべく、インスタグラムのアカウントを開設してみました!!旅行のような特別な出来事だけではなく、数年後に懐かしくなるような、水面に反射する小さな光の粒のような思い出を記録していきます。
主人公はぬいぐるみのジョギーくん。ドイツから連れて帰った、ハリネズミの赤ちゃんです。
皆様が落ち込んだ時、少しだけ別の世界に憧れた時、癒しが欲しい時、愛らしいジョギーくんの生活をちょっとだけ覗いてみてください👀
joggy🦔(@joggy.europeanlife) • Instagram写真と動画