【はじめに】
留学前の自分は悲観的でした。
今までにも書いているように、自分の中では「みんなが妊娠や出産など新しい人生ステップへ進んでいるのに、海外留学のせいで人生に遅れをとっている。みんなは給料を旅行やライブや趣味に遣っているのに、自分だけは留学費用の貯金のために我慢の連続で生活も辛い。みんなみたいにハーバードやオックスフォードなどの超有名な名門大学に進学できなかった。ここまで大変な思いをして、アラサーで海外留学をする意味あるの?」という気持ちが大きかったからです。
海外生活が始まり、早くも半年目を迎えました。他人の人生と比較しがちな過去の自分への助言も込めて、アラサー留学の感想を書いて行きたいと思います。
・同級生が自分よりも若いということ
MBAなら状況が違うかもしれませんが、一般的な修士課程である自分のコースの同級生は8割方が21~22歳。イタリアの大学は、学部が3年間であるため、修士課程の同級生はもうすぐ29歳を迎える自分よりも年下になります。
この点については、コース前からよく考えておくべきだったと自分の中では反省しています。
日本で働いていた際、大学3~4年生の学生と接するのは、インターンシップや外部講師など指導者としての役割を任された時でした。それが今回は、指導者ではなく学生という同じ立場、さらには彼らよりも語学力にビハインドを抱えた状態で毎日を過ごすことになりました。留学前の日本なら指導しているくらいの年齢の同級生とプロジェクトを進める大変さを考えていなかったのです。
当然の事ながら、アラサーの私から見れば、彼らの発想や考え方は甘いです。
コンサルで働いていた人が、コンサルの大学生向けインターンシップに紛れ込むという状態を想像してください。口を挟みたくなりませんか?(笑)
例えば、話し合いが円滑に進むようにと、アジェンダ表を作成してグループのメンバーに投げてみたりしました。しかし、アジェンダ表の重要性を分かっておらず、誰も追加の書き込みをしてくれないまま葬られました。
これはほんの一例で、理論よりも感覚を中心に物事が進みます。「面白そう!」というアイデアに飛びつき、提案に具体性がなく、実現に向けた課題抽出作業をしないのです。
もちろん、キャリアのある私の方が彼らよりも企画能力が優っているのは当たり前のこと。21歳のヨーロッパの子に、日本のビジネス論を当てはめるわけにもいかないことは承知していますが、ノロノロと余計な話で終わるくせに成果物は作らず、ミーティングの回数だけを重ねたがる彼らには辟易しました。
更なるストレスは、語学力の問題もあり、彼らに全ての問題点を指摘できないことでした。もっとも、仮に私の英語力がネイティブ並みだったとしても、全てを指摘したかは疑問です。この場において、私はあくまで学生。実務経験のある自分が指摘をすると、指導になってしまわないかという不安が拭えませんでしたし、彼らも同級生から助言をされて良い気はしないでしょう。
このような日本人的な遠慮をしがちな性格もあり、私のグループワークはさらに辛いものとなりました。
・実務経験があるということ
一方で、社会人として実務経験があることは、授業を理解する上で強みになると考えます。
今期の授業では、デジタル化やAIの導入によって生じる社会の変化がテーマとして取り上げられました。私はそもそも、デジタル社会における行政サービスの変化や政府広報の利便性向上等を研究目的に留学先を選定したため、毎回の授業内容はとても役立つものでした。想像通りの充実したトピックで、私の問題意識にぴったり。他人から何を言われようと、自分の興味関心に沿った授業を受けられるのはこの大学だったのだ、進学して良かったという確信にも繋がりました。
一方、若い同級生からは「理論ばかりで面白くない。早くプロジェクトで実践的な課題を学びたい」という声があがっていました。大学院の教育方針が「理論をベースにデザインを通じて社会課題を解決する」というものなので、毎回の授業では理論や現在の社会課題の考察に重きをおかれます。私自身は大学の教育方針をとても気に入っていますが、若い彼らにとっては経験を積むことが大事なように思えてしまうのだろうなと感じました。
・理不尽なことへの割り切り
社会人経験は心の拠り所になっています。
イタリア渡航後から、私のマインドセットは「これは仕事である」です。グループワークで苛立つことがあっても、日常生活でトラブルが頻発しても、心の中で「これは仕事である」を呟けば、大抵乗り切れています。自分にとっては魔法の呪文です。
さらに、「就活や仕事など、今までの人生でも理不尽なことを乗り越えてきた。だから今回だって乗り越えられるはず」という自信も心の支えになっています。感染症対応に巻き込まれた時や政治家や社長と顔を合わせた経験、深夜3時まで職場で一人で仕事をした日々を思い返すと、今回だって大丈夫だとポジティブに物事を捉えられます。
異国での生活にトラブルは付き物ですが、社会人経験を通じて、少々のことでは動じない強いメンタルを養えるようになったのかもしれません。相変わらず、一人でジェラートを買うのにも躊躇してしまう豆腐メンタルではありますが…笑
・金銭的に余裕がある、余裕を作れる
学費の安い大学を選択したからですが、貯金を使って国内外の旅行を楽しんでいます。
私は大学時代、アルバイトをかけ持ちするほど多忙で、数か月に一度は扁桃腺を腫らして寝込んでいました。アルバイト費用はダブルスクールの費用や生活費、交際費でギリギリ。余剰資金はありません。海外旅行や海外留学へ出かける同級生のことが、羨ましくてたまりませんでした。
今回、自分のお金を自由に遣える開放感を存分に味わっています。誰にも遠慮せずに、空いている時間を見つけては近隣都市へ出かけるなんて、大学生の交換留学なら不可能でしょう。自分の稼ぎと貯金があるアラサー留学だからこその楽しみ方だと思います。
なお、私は限りある資金を旅行代に回すべく、普段はかなり節約しています。自炊が基本で、お昼はパスタ、夜は白ご飯&お味噌汁&おかずが多く、間食はしないです。節約が苦にならないのも、留学準備のために節約を重ねていた社会人生活のお陰なので感謝しています。
また、大学時代よりも、休むことへの抵抗感が多少薄れました。社会人生活を通じて、メンタルの健康が何よりも重要だと理解できたからです。
留学生活で一番辛いことは、前述したグループワークでした。つまり、年下の学生たちと英語でコミュニケーションを取ること。グループワークでは、下記のようなことが発生します。
・あなた、政府の情報なんて信じられるの?政府が正しいこと言っているか分からないじゃない!(なぜ陰謀論のような主張を議論に持ち出すのでしょう。)
・私の予定が合わないから今日のミーティングは変更して!(開始10分前に主張する神経が理解できませんし、なぜあなたの予定に他のメンバーが合わせないといけないのでしょう?)
・あなたの定義は違うよ!(本当は彼女の認識が誤りで、私の認識が正しかったので訂正すると、後から音声メッセージが送られてきました笑)
一つずつ見ると大したことはないですが、心許せる人が近くにいない状況では辛く感じてしまいます。このような些細なトラブルやモヤモヤが積み重なり、彼らの顔すら見たくないほど気分が重くなってしまったことがありました。どうしても話したくない。外にも出たくない。そんな鬱のような暗い気持ちになった時、私は潔く授業をオンラインに切り替えていました。他人と話さなくても良い環境を作り、ハーブティーを飲みながら自室で授業を受けることで、少しは精神的にも楽になれましたし、心にも余裕が生まれました。
メンタル病まない程度に頑張ろうというのが留学の目標です。この程度のマインドでも、真面目に課題や試験をこなしていたら9割をもらえる科目もあったので、無理をしすぎないのが自分には合っているのだろうと思っています。
【いま思うこと】
帰国後の将来のこと、ライフプラン、キャリアプランなど、悩むことはありますが、人生を楽しめている実感はあります。
社会人経験に照らし合わせて理論を消化できるから授業は面白い。少しずつ手を振ってくれる知人や友人が増えていき、毎日が明るい。キャンパス内ですれ違う知り合いが「今日の服可愛い!」とか「元気??」とか声をかけてくれるのも嬉しい。大学時代ほど金銭的な心配をせずに生活ができるので、精神的にもラク。空いた時間に国内外を旅行できるのも楽しい。
全て、今の私だから経験できていることです。日本にいた際にお金を貯めていたこと。きちんと英語を勉強してきたこと。イタリア語も細々続けてきたこと。独身であること。
どれか一つの条件でも欠けていたら、今の楽しみは享受できていません。
また、大学時代よりも、時間は有限であることを強く実感するようになりました。コロナ禍や留学準備などを経て、「いつかできること」は「いつまでも叶わないこと」へと簡単に変わると知ったからです。
自分は元々、休みの日は自室で昼寝をしている方が好きなタイプです。だから、慣れない英語によるグループワークで疲れ果てた週末には、本当はベッドで寝そべりながら小説でも読んでいたいのです。けれども、イタリア国内を周遊できるのは、今しかありません。もしも自室に籠る生活を送ったら、留学後の自分は後悔することでしょう。なぜ貴重な2年間にイタリア旅行をしなかったのだろうと。国内のあちらこちらへ行く原動力が生まれたのは、社会人留学をしたお陰です。2年間を大事に過ごさなければならないという一心で行動しています。
現在、海外の大学院留学をすべきか悩んでいるアラサーの方がいれば、ぜひ挑戦してみてはどうかと助言したいです。
今日で前期のテストが終了しました。貴重な2年間のうち4分の1が終わったことになります。来月からも悔いのないように、ヨーロッパ生活を満喫していきたいです。