Weekly Yoshinari

Weeklyじゃなくてさーせん🙏🏻

小さな食いだおれ

私はよく、食生活がおかしいと言われる。

朝ごはんは豆乳とレーズンロール。場合によってはナッツ。昼ごはんはヨーグルトとサンドイッチ。もしくはヨーグルトとサラダ。夜ごはんはヨーグルトとサンドイッチとキレートレモン。または豆腐そうめんと栄養補助食品みたいな何かと野菜ジュース。

.......おお、見事に肉がない。魚もない。そして、ヨーグルト大好きやん。

よくそれで生きてるねと言われるが、肉と魚を口にするのは、会社の飲み会や友達とご飯に行く時だけで満足してしまう。

たぶん、肉と魚を選ばないのは、脂物が好きではないからだ。コロッケやメンチカツは、自分から絶対に手を出さない。あの脂でテカっている衣が好きになれないし、なぜか昔から、食べると吐気に襲われる。目の前に出されたら、完食しようとはするが、揚げ物が苦手なことを知っているので、そんな嫌がらせのようなことは誰もしてこない。昔はドーナツや唐揚げも苦手だったほどである。

そんな訳で、基本的に「たんぱく質は豆類で摂取すればいいわ」と考えているのだが、

「コンビニのチキンが食べたいな〜」

「ひとり焼肉したい〜」

「ファストフード食べたい〜」

「家系ラーメンにニンニクたっぷりのせたい〜」

と脂物への欲望を抱く時がある。ストレスが溜まりすぎて頭がパンクしている時だ。

だが、実際にはカロリーと健康と食べた後の気持ち悪さを気にしてしまい、手に取るのは鶏肉ラップサラダが関の山である。自分としては、ラップサラダでもたんぱく質を摂取しようと頑張っているつもりだ。

 


そんな乱れた食生活を送っているのだが、飲むヨーグルトを啜りながら、ふと大学卒業間際の頃のことを思い出した。

四年間を過ごした街を離れるのが寂しくてたまらなかった私は、自分にしか分からないような方法で記録を残そうとした。写真を取るとか、友達に会うとかではなく、自分だけの何かが、あの時の私には必要だったからだ。

悩むこと数分。私は手を叩いた。

これなら、自分一人で楽しめるし、お金もあまりかからない。

それは、自分が四年間で巡った飲食店を再訪するというものだった。さらに、食べるだけではなく、フォローフォロワー0人という完全プライベートTwitterアカウントに、写真と感想を残しておくのだ。そうすれば、いくらでも食と四年間の思い出に飛び込むことができる。

かくして私は、大学周辺のお店をピックアップし、一日ごとに訪ねた。

 

食はすごい。

きっと視覚に嗅覚、その他あらゆる感覚を総動員して挑むものだからだ。柚子あんかけうどんも、坦々麺と麻婆豆腐も、チーズフォンデュも、目の前に出された瞬間に、思い出が蘇ってきた。口に含むと、今度は、悲しくなった。食べる時間は、呆気ない。

訪問の最後を締めくくったのは、大好きなカレー屋さんだった。

チーズナンセットのラッシーを飲み終えた時に、思った。

次の街でも、美味しいものに出会うため、色々なお店を訪れてみよう。


そしてやって来た次の街。つまり今の街なのだが、私はラッシーの後味が消えたように、飲食店開拓へのやる気も失せてしまっていた。

似非ベジタリアンとなり、食事は、植物に水を与えるのと同じような状態になっている。常に美味しいものを食べたいという欲望もないし、完全菜食主義者を希望しているわけでもない。食に無頓着だと、あまりにも生活に張合いが無さすぎるのではないだろうか。

前の街には友達がいた。だから、気軽に誰かとご飯へ行くことができていた。新しいお店の扉も躊躇することなく押し開けられた。しかし、この街には、知り合いがほぼいない。自分から動かなければ変わらないのだ。

よし、動こう。何事も挑戦が肝心である。

こうして、自宅周辺の飲食店の開拓ミッションが始まった。

 


その1。

前の街を去るときに食べたのがカレーだったなら、今回もカレーから始めるべきだろう。

Googleマップでカレー屋を調べると、自宅から徒歩5分にインド・ネパール料理店があった。いつも使う道と逆方向に位置するので、この街に来て一年になるのに存在を知らなかった。と言うと、ただの言い訳か。自分がどれだけ出不精なのかを再認識させられた。

ちょっと奥まった所にあるお店は、店の前に、色彩豊かなメニューが貼ってあった。いくら見ても覚えられないようなカレーの名前が、ずらりと羅列してある。店に入る前から、既にインド料理屋さんという感じが出ている。

休日は早く起きられないため、訪れたのは13時頃だった。お客さんは、わりと入っている。私のように一人で来ている人もいれば、カレーを交換しあっているカップルもいる。地元では知られた店らしい。こんなに開放的な雰囲気ならば、もっと早くから訪れておけば良かった。

私はチーズが大好きだ。そして、マンゴーも好きだ。インド・ネパール料理店には、チーズナンとマンゴーラッシーがある。すばらしい。

インド料理店では、だいたいバターチキンとほうれん草チキンを選ぶ。今日は、大奮発して、3種類セットを頼んだため、マトンカレーを足した。さらに、課金して、ナンをチーズナンへ変更した。

そして、出てきたのがこちら。

f:id:misteriosaxoxo:20200315163207j:image
これだよ、これ!

このカレーを求めていたのだ。よく伸びるチーズナンをスパイスのきいたチキンカレーにつけて、頬張りたいと思っていたのだ。さらに、水分が持っていかれた口の中をマンゴーラッシーで満たすのが、何者にも変えがたい幸福感。甘ったるさが辛さを中和してくれるので、次に食べるカレーがさらに美味しくなる。まるで美味の永久機関だ。

ただ、似非ベジタリアンの私には、量が多すぎた。料理を残すのはマイルールに反するため、自分と戦った。無事に自分に勝った。

美味しかったです。ごちそうさまでした。

 


その2。

中華料理で一番好きなのは、麻婆豆腐だ。たまに家でも作るが、自分の麻婆豆腐は何かが足りない。普通に美味しいだけだ。もっと美味しい麻婆豆腐が食べたい。

前の街にいた時、麻婆豆腐の専門店があった。だいたい、麻婆豆腐とごま担々麺のセットを頼んでいたのが、私はこれを超える組合せに出会えることはないだろうと思っている。山椒のきいた麻婆豆腐と、胡麻とナッツがマイルドな辛さを引き出している担々麺。さらに、ホロホロの角煮が添えてある。写真を見なくても、思い出せるほどだ。

専門店の麻婆豆腐セットは、ヨシナリの中でレジェンドであるため、近所の中華料理屋の麻婆豆腐への期待値は低かった。家で食べるものよりも美味しかったら、それで満足だ。

中華料理屋は、先ほどのインド・ネパール料理店の隣にある。年季の入った佇まい。外からでは、店内の様子が伺えない。営業しているかどうかも怪しかったが、私は「営業中」の看板を信じて、引戸に手をかけた。

店内には、六十歳以上と思われる男性しかいない。皆、示し合わせたようにジャージを着崩し、スポーツ新聞を開き、煙草を吸っている。ピンクのニットワンピを着ている私は、イヤホンを耳から抜いた。自分は一人で行動できる方だ。ひとりバーからひとりカラオケ、ひとりスイパラまで達成している。その自分をもってして「ひとり〇〇」の難易度度を星5つで示すなら「★★★★☆」を付けるようなお店だった。

まあ、有名店よりもこういうお店の方が中華料理は美味しいという説もある。店員の中国語が厨房から響いている。私は、悩むことなく、麻婆豆腐を注文した。

f:id:misteriosaxoxo:20200315163227j:image

量多すぎやん。

食べられるのか、似非ベジタリアン。カレーの時よりもきついんじゃないのか。不安が頭をよぎるが、それでも、食べる。出されたものは、全部食べる。

私は手を合わせて、勝負に挑んだ。

肝心のお味だが、想像していたよりも美味しかった。期待値が低かった分を考慮しても、美味しかった。山椒の辛みが強い、自分好みの麻婆豆腐だ。豆腐の量も多く、すくえども底が見えない。ご飯が足りなくなり(お代わりが無料らしいが、そこまでは食べられない。)途中からは自分との戦いを繰り広げていた。口の中をひいひいさせて食べるのも、また味わいを増長させる気がすると言い聞かせて完食。杏仁豆腐が癒しだった。

レディースセットなども用意されていないお店であり、明らかに自分は客層と真逆の位置にいるが、美味しかったので満足です。何より、これで750円。お腹が臨戦態勢ならば、また行きたいです。

 


その3。

インド(正確にはネパール)、中華、と来たら次はイタリアンだろう。イタリア大好き!パスタ大好き!という安易な考えのもと、路地裏のイタリアンへレッツゴー。

小さなお店だった。外から、厨房に立つ二人の男性の姿が見通せる。客は一人もいなかった。

「いらっしゃいませ」

案内されたのは、窓際の席だった。ありがとうございます、と答えるが、何となく緊張する。貸切状態である。

メニューを見ると、正統派イタリアンではなく、創作パスタが中心だった。今日のおすすめには、ペペロンチーノが載っている。だが、せっかくならば、一番変わった味が食べたい。迷った末にセレクトしたのは、アボカド明太子パスタだった。

f:id:misteriosaxoxo:20200315163243j:image
おお、なんかオシャレ。カレーと麻婆豆腐と比較すると、インスタ映え度が急上昇している。店内にかかる洋楽も相まって、私は気分が高まった。

雨が、屋根を叩く。足早に通り過ぎる人を横目に、私はパスタをくるくるする。口に運んだ一口目は、シソと明太子が絡んでいた。初めて食べる味。アボカドと明太子が合うことを初めて知った。

さらに私が頼んだのは、こちら。

f:id:misteriosaxoxo:20200315163256j:image
フレッシュトマトのチーズケーキ。個人的には、アボカド明太子パスタよりも、このケーキの方が気に入った。チーズケーキのしっとり感と、トマトの爽やかさが合っている。ピザやトマトソースパスタがあるのに、チーズケーキにトマトジュレをのせると、途端に珍しい料理へ変身する。

小さなお店で、初めてを発見した12時半だった。

 


その4。

このお店に来るのは、実は2回目だ。ちょうど一年前の3月、自分の誕生日祝いにやって来た。まだ美味しい物探しへの熱が冷めていなかった時のことだ。

もう一度行こうと思っていたものの、行かずじまいになっていた。日々の忙しさにかまけて、一年越しの訪問である。

ラピュタの音楽が流れており、友達同士よりも一人に似合う空間だ。

f:id:misteriosaxoxo:20200315163409j:image

ほら、店内には気球が浮かんでいる。現実逃避をするためにあるようなカフェなのである。

今日のセレクトは、ラピュタ風目玉焼き厚切りトースト。休日にぴったりだ。

f:id:misteriosaxoxo:20200315163433j:image

目玉焼きを優しく切ると、トロトロの黄身がじゅわりと流れた。目玉焼きの下には、野菜がゴロゴロしたポテトサラダがのせられている。黄身がソースのように絡んで、幸せ感が広がった。

雨のやんだ今日は、雲がぷかぷか浮いている。この空の向こうに、別の世界があれば面白いのに。私は別の道を選択していた自分を想像してしまう。

ささやかな夢がある。それは小さな図書館を作ることだ。並べるのは、画集やファッションの本。オシャレで可愛くて、美しいモノが載っている本だけを棚に並べるのだ。深いブラウンの壁には、淡い印象派の絵や、ファッション画を飾る。そして、同系色の木目調の椅子とデスクを置き、それぞれの時間を過ごしてもらいたい。さらにギャラリーを併設し、アーティストに個展を開いてもらう。近代のサロンのように、芸術を愛する人が、夢を見続けられる空間を作るのだ。

私は今、まったく違う場所にいる。別の道を選んだことを後悔してはいない。

だって、この道なら、いつか戻ることもできそうだ。遠回りしても、終着点は変わらない。

いつの日かこのお店のように、ゆったりした時間を紡げるような空間を広げられればいい。

トーストの耳を食べ終わる頃、私は叶えたい夢に蓋をした。

 

この街も、いつか私の記憶の一部になっていく。十年後、キラキラした思い出になるように、私は美味しい物を探していきたいと思う。

次は、お寿司でも食べに行こうか。